趣味と親の介護って両立できる? ヴィジュアル系バンドの熱狂的ファン、通称「バンギャル」のライター・藤谷千明さんと漫画家・蟹めんまさんは、40代に突入。自分の老後もちらつき始めたし、それよりも親の老後が目下の課題......。そんな2人が老後計画について調べ尽くした一冊『バンギャルちゃんの老後 オタクのための(こわくない!)老後計画を考えてみた』(発行:ホーム社 発売:集英社)が発売された。
前回の記事では本書の冒頭から、企画が立ち上がった経緯をご紹介した。今回は、「第3章 教えて先輩! 親と私の老後計画」から、ヴィジュアル系専門のベテランライター・大島暁美さんへのインタビューをお届けする。
80年代から活躍し、X JAPANのhideさんとも交流があった大島さん。現在は高齢の母親と同居中とのことだが、親の老後と仕事と趣味は、どのようにバランスを取っているのだろうか。
~ 以下、本文より ~
自分の老後計画の前に、ある日突然直面することになりがちな親の介護や老後問題。雑誌のインタビューやライブレポート、そしてエッセイ「ロックンロール日記」などで知られるレジェンドライターの大島暁美さんも、現在高齢のお母様と同居中です。生活にどんな変化が起きたのでしょうか? 大先輩のロックンロールな同居話を伺いました。
藤谷:私たちもバンギャルも大人になりました。当たり前ですが、同じようにミュージシャンたちも年齢を重ねるわけで。先日、好きなミュージシャンの生誕ライブに行ったのですが、「還暦が見えてきた」とおっしゃっていて、「ひゃー!」となりました。
大島:最近、とあるパーティーに行ったのね。そしたら少し年下のミュージシャンたちが集まって、すごく真剣に老眼の話をしていたの! 「大島さんはもう老眼でしょ」「そうよ! 悪い?」みたいな。もう老眼自慢大会みたいになっちゃって!
藤谷:すごい光景ですね。今日は、ロックな生活の先輩である大島さんにお話を伺いたいと思います。
蟹:大島さんは現在、お母様と同居されているそうですね。
大島:19年前に父が亡くなって、「二人だけじゃ不安だから」と私の自宅の近所に母と祖母を呼び寄せたのね。その後、祖母が大腿骨(だいたいこつ)を骨折してしまって寝たきりになってしまって。リハビリも頑張っていたのだけど、亡くなってしまったの。
蟹:大腿骨が「転機」になりやすいという話はよく聞きます。
大島:そうなのよね......。これまで母は一人暮らしをしたことがなかったから心配で、私の住んでいるマンションの別室に空きが出たこともあって、そこに引っ越してもらうことにしたの。その後も、できるだけ母の部屋に顔を出すようにしていたのだけれど、ある時期からお鍋を焦がすような生活の不注意が増えてきたり、持病のリウマチもひどくなったりしてきて、結局同居を提案したのよね。
蟹:もともと大島さん一人で暮らしていたお部屋に、お母様が来る形になったんですね。
大島:そう、私と猫2匹で暮らしていた部屋をリフォームして母の部屋を作ったり、夜中に冷えるのはよくないから床暖房を入れたり、ガスコンロをIHに換えたりね。
蟹:リフォームするポイントや業者はどのように選びましたか? 介護保険からのリフォーム費用補助などはありましたか?
大島:保険は使ってないの。例えば、手すりのようなものには適用されるらしいのだけど、部屋の仕切りや床暖房のように介護に直接関係ないものは使えないらしくて。手すりも提案したけれど、母が「逆に頼ってしまってダメになる」と言うので、つけてないの。
藤谷:よくニュースで「ヒートショックでお年寄りが亡くなる」なんて聞くから、床暖房にも適用されるものだと思ってました。そうはいかないんですね。
蟹:介護保険は、他にも段差をなくす工事みたいなことには適用されますね。
藤谷:めんまさんは不動産関係の仕事をしてたこともあって、こういうところには詳しいですな。
大島:そうそう、段差もなくしたかったけれど、逆に業者さんから「昔のマンションだから(構造的に)難しい」と言われたの。
藤谷:それはなぜですか?
大島:最初、私が入居する時にスケルトン(柱と梁だけで内装がゼロの状態)にしてフルリフォームしたんです。その頃は、そもそも同居することを考えてなかったので、年をとったときのことを考えもせずにデザイン重視でリフォームしちゃったの。
藤谷:なるほど。中古マンションのリフォームが流行ってますけど、のちのちのことを考えたほうがいいかもしれませんね。
大島:床暖房も最初から入れるほうが安いしね。後付けすると、まずは全部床をはがさなきゃいけなくなるから、すごくお金がかかるの。
蟹:最近は、おいおいのことを考えてのアドバイスをくれる業者も増えていますね。
藤谷:ほかに、同居するまでに苦労したことはありますか?
大島:私の部屋にも、もともと母の住んでいた部屋にも、たくさん物があって「断捨離」に苦労しました! なんでも溜め込んであって。食器なんかも「一人暮らしなのにどうしてこんなに?」ってくらいたくさんあるの(笑)。
蟹:ウチも遺品整理まっさいちゅうなので、すごくわかります(笑)。
大島:だって部屋に、家族全員いた頃の6人分の食器があるのよ。思い出がこもってるから捨てられないのよね。
蟹:物をすごく大事にする時代の人ですしね。
大島:でもね、私は心を鬼にして「私も自分のものを処分するから!」と強引に大掃除をすすめたところ、周囲に「鬼娘がみんな捨ててしまった」と言ってたらしくて(苦笑)。
蟹:わあ~! ウチと完全に一致です!!
大島:そんなふうに、同居が始まり、今に至るわけ。
藤谷:生活に変化はありましたか? 例えば、我々「ロックンロール日記」の読者からすると、大島さんは夜な夜なロックミュージシャンとお酒を飲んでいるイメージもあるのですが。
大島:さすがに年齢的なこともあって、夜な夜な飲み歩くようなことはなくなりましたね(笑)。「行くよ~」と約束していたライブも、母の調子が悪いと当日にキャンセルしてしまうこともあったので、ライブの予定そのものを減らすようになったかも。
蟹:わかります! ウチも祖父と父が立て続けに逝ってしまったのと、コロナの関係で、この数年ドタキャン魔と化しています。とくに友達と一緒に行く予定のものをドタキャンするのは本当に申し訳ないので、誰かと連番でチケットを取ることがなくなってしまいました。
藤谷:この数年、めんまさんと並んでライブ観てませんね。
蟹:ライブに行けないことそのものも悲しいけど、前売りチケットが無駄になるのも、空席を作ってしまうのもつらいです。この苦しみに耐えられなくて、どんどんライブから足が遠のいています......。
大島:そうなのよね~。
蟹:「本当のファンなら、気合いさえあればライブに行ける、それが愛情」みたいな考えもあるじゃないですか。
藤谷:「ライブに来ないのはそこまで好きじゃないんでしょ」的な......。
蟹:最近はミュージシャンの方もSNSでそういう発言をされていたり。でも、いくらバンドが好きでも現場に行けない状況ってあるじゃないですか。
藤谷:生活の土台あっての「趣味」なんですよね。そればかりは逃れられないですもんね。私の周囲でも「同居してる親も年だし、あと何年かしたら今みたいにライブに行けなくなるかも......」という話を聞くようになりました。
蟹:大島さんはヴィジュアル系のお仕事だけでなく、猫好きの集まる「にゃんだらけ」というイベントを主催されていますよね。そんな絶対に外せない予定はどう調整していますか?
大島:むしろ、イベント準備でヘトヘトになってるときは、母が気をつかってくれるのよね。お昼ゴハンを作ってくれたりとか。それが本人にとってやりがいのあることみたい(笑)。
藤谷:お母様にとって、大島さんをケアすることが、自分のケアにもなるというか。誰かをいたわることで、自分が回復することもありますもんね。
大島:他に母と暮らしていて気がついたのは、自分の好きな音楽を大きな音で聴けないことかな。ひとりの時はメタルハードロックをスピーカーでガンガンかけていたけど、さすがにね(笑)。
藤谷:ヘッドホンで聴いていると、お母様の声が聞こえなくなりますもんね。
蟹:祖父の入院の付き添いをしていた頃はそうでしたね。点滴の機械のエラー音とかを聞き逃しちゃうのが心配で耳を塞ぎたくないから、イヤフォンで音楽を聴かなかったです。
大島:だから最近は、車を運転する時が好きな音楽を聴く時間になってます。
藤谷:大島さんは以前から、猫と暮らしていたそうですが、お母様と猫は仲良くやっているのですか?
大島:母は犬のほうが好きで、昔は犬を飼っていて、「猫はきらい」っていつも言ってたの。でも一緒に暮らし始めたら、すごく仲良くなっちゃった(笑)。私がいない時は猫の餌も与えてくれるの。
蟹:それも、お母様の元気の源になってそうですね。
藤谷:「人」という字は人と人が支えあうというし、大島さんとお母様と、そして猫とも一緒に支えあう暮らし、素敵ですね。
~ 以上、本文より ~
親の介護があるとそれまでと同じように趣味を楽しむことは難しくなる。それでも大島さんは、母親を支えつつ、時にはやりたいことを支えてもらう生活を送っているようだ。大先輩の経験談を、心強い参考にしたい。
『バンギャルちゃんの老後』ではこのほか、「バンギャル仲間で住める老人ホーム」の実現を模索したり、介護資格を取ってみたりと、藤谷さんと蟹さんが老後問題をとことん考えていく。譲れない趣味を持つアラフォー世代にとって、頼りになる一冊だ。
〈著者プロフィール〉
■藤谷千明さん
ふじたに・ちあき/1981年生まれ。自衛官、書店員などの職を経てフリーライターに。バンギャル歴は約四半世紀。著書に『オタク女子が、4人で暮らしてみたら。』などがある。介護職員初任者研修を取得し、訪問介護にも従事する。
■蟹めんまさん
かに・めんま/漫画家・イラストレーター。奈良県出身・在住。バンギャル歴20年以上。著書に『バンギャルちゃんの日常』『バンギャルちゃんの挑戦』などがある。介護職員初任者研修修了。
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