2023年3月24日、ゴダール敏恵さんの新著『70代からのパリジェンヌ・スタイル フランス女性に学ぶ、幸せなシニア暮らし』(主婦と生活社)が発売された。
本書は、パリでエステティシャンやソシオ・エステティシャン(高齢者や生活困難者に美を提供)として20年以上活躍してきたゴダールさんが、パリに暮らす高齢パリジェンヌたちの、時の流れを受け入れて自分らしさを大切に美しく老いていく姿、多様性ある生き方を紹介するライフスタイル本。
登場するパリジェンヌはみな高齢(70~80代)だが、80歳を過ぎてなお、新しい土地で新生活を始めようという女性や、70歳を過ぎてから復職し、人前に立ち続けている女性、お気に入りのアーティスト作品や食器をコレクションしたり、自分の手でリフォームしたこだわりの空間で老いた猫と暮らす女性など、誰もが人生を楽しみながら、美しくたくましく老いを重ねている。
都市文化の歴史が長いパリに暮らす高齢パリジェンヌたちは、贅沢とはいわないまでも、社会とかかわりながら愉快に生きるための「生活の知恵」をもつという。
また、フランスには、日本ではまだ実施されていない先進的な社会制度(「異世代ホームシェア」など)が存在する。
ひとりの高齢者にスポットを当てるのではなく、さまざまな立場、出自、スタイルを持つ人々の「生きざま」を取り上げることで、フランスの多様性を知るとともに、将来の自分の姿に照らしてより共感しやすくなっている1冊だ。
フランスでも高齢化は深刻な問題だ。特にパリでは一人暮らしの高齢者が増えていて、75歳以上の一人暮らしは約8万4000人。彼らが自宅で安心して暮らし続けられるためのひとつの手段として、パリ市は高齢者と若者が共に暮らす「異世代ホームシェア」を奨励している。
きっかけは2003年の猛暑。例年になく厳しい暑さが続き、およそ1万5000人が熱中症で亡くなった。そしてその大半は、一人暮らしの高齢者だった。この悲劇を引き起こしたのは高齢者の孤立であったという反省から、孤立を防ぐ対策として、すでにスペイン・バルセロナで開始されていた異世代ホームシェアが、2004年にパリにも導入されたのだ。
高齢者と同居するのは、主に大学生を中心とする若者だ。パリの家賃は高額で、就学や就職のために上京してくる若者は手頃な住まいを見つけることは難しい。数名の若者同士で1軒の住居をシェアすることもめずらしくない。一方、一人暮らしのパリの高齢者は、自宅に使っていない部屋を持っている場合がある。離れて住む家族にとっても、一人暮らしの高齢の親の存在は心配が尽きない。
このような三者の望みに応えるために、非営利団体が立ち上がり、若者と高齢者間の社会的連帯によるホームシェアの仲介をしているという。2018年には、異世代ホームシェアに関する法的措置が制定された。異世代ホームシェアが認められるのは、30 歳以下の若者と60歳以上のシニアのみと定められ、パリ市もこの事業に補助金を出している。
非営利団体のひとつ、「Ensemble 2 générations (二世代一緒の意、以下E2G)」に聞いたところ、同団体では、若者に次の3種類のホームシェアを提案している。
①在宅プラン 月額10ユーロ
夕方から夜間は、在宅義務があり、週1回のみ夜間外出が可能。1か月あたり週末2回は外出自由。9月から翌年6月までの間に4週間の休暇取得が可能。
②助け合いプラン 月額120ユーロ
①のような在宅義務はないが、買い物や外出の付き添い、パソコン操作の手助け等、高齢者の日常生活の援助をする。
③共同生活プラン 月額200ユーロ~ 住宅賃貸の市場価格より30%割安の設定
特にルールはなく、双方が気分よく楽しく共同生活をできるように配慮する。
①②の場合、若者は月間の費用のほかに、年間390ユーロ、③は年間300ユーロをE2Gに収める。①②は利用する高齢者の年齢が高めで85歳から98歳。③は、まだ手助けを必要としない元気なシニア世代の利用が多い。
①と②は、家族の介護に要する時間が増え、自分たちだけでは対応しきれなくなって申し込まれるケースが多い。そのため、最初のうちは、高齢者サイドが若者との同居に気が進まないこともある。そのため、E2Gの担当者は必ず高齢者に会って時間をかけて話し合い、信頼を得ることから始めるという。
若者にも事前に面談し、詳細な聞き取りをしたうえで、相性のよさそうな二人が選ばれる。マッチングアプリのような仕組みだが、担当者によると、活動目的は「世代の異なる二人の間の絆を紡ぐこと」で、「オンラインで両者のプロフィールをマッチングさせること」ではないという。
本書では、実際に同居している市民にも話を聞いている。ジュリエット・ラフォレさん、1935年生まれの88歳と、アントワーヌ・ベイヤさん、2000年生まれの22歳の二人だ。
ジュリエットさんは、現在88歳で、昨年91歳の夫を亡くしたばかり。アントワーヌさんは、資格取得のためフランス北東部から上京し、パリの学校と郊外の企業で研修中。二人は、昨年9月から2年間の予定で同居中だ。
「夫の死後、気持ちを整理するのに3か月くらいはかかったかしら。そんなある日、たまたま異世代ホームシェアの話を耳にして、寝室が余分にあるから住居探しをしている学生の助けになると思ってE2Gに電話してみたのよ。若者との共同生活は面白そうだと思う好奇心のほうが強かったかもしれないわね。夫の不在を埋めようという目的ではなかったわ」(ジュリエットさん)
「僕は、パリに進学が決まった時、母から勧められました。すぐに関心を持ち自分で申し込みました」(アントワーヌさん)
アントワーヌさんは以前にアイルランドで女子学生二人とシェアしたことがあったが、「二人とも掃除も片付けもしない不潔ぶり」で、我慢することができなかったのだという。
同居後、二人にはどのような変化があったのだろうか。
「私は、アントワーヌと気が合うので、よく笑うようになったわ」(ジュリエットさん)
「高齢者に対する見方が変わりました。僕はまだ若いですが、両親の世代になると皆、漠然と老いに対する不安を抱いているものだと思います。でもジュリエットさんと暮らし始めて、彼女の年齢の重ね方を目の当たりにして、老いを前向きにとらえることができるようになってきました」(アントワーヌさん)
自分のことは自分で何でもするジュリエットさんだが、パソコンの操作はアントワーヌさんに助けてもらっている。役所の手続きも、インターネットでしなければならないことが多く、なにかと頼りにしているという。
生活の時間帯も食べるものも違うため、普段の食事は別々。夫が亡くなってからはほとんど料理をせず、野菜やフルーツに、魚介類や卵で簡単に食事を済ませるジュリエットさんに対し、アントワーヌさんは大のお料理好きで「毎日自炊」している。時には、アントワーヌさんが手料理をご馳走したり、ジュリエットさんが料理の本をプレゼントすることもある。
ジュリエットさんもアントワーヌさんも。お互いを家族でも友人でもない「相棒」として、「友情と尊敬の念」を感じているという。
同居を始めてまだ数か月の二人の共同生活がこんなにうまくいっているのは、仲介役のE2Gのおかげだ。ジュリエットさんのところにはE2Gの担当者が直接訪れて、アントワーヌさんとはオンラインで、趣味や生活習慣、日常生活について時間をかけて話し合った。同居が始まってからも、頻繁に電話で連絡を取り合い、様子を聞いてくれる。
「自分のコンフォートゾーンから飛び出すのが好き」というジュリエットさんは、健康で好奇心旺盛、考え方も若く、外見もとても88歳には見えない素敵なパリジェンヌだ。だからこそ、異世代ホームシェアという新しい試みにチャレンジできたのだろう。
〈目次〉
【Preface】パリジェンヌに学ぶ年齢を重ねる愉しみ
【Prologue】フランス女性たちの、美しく生きるための教え
【Chapitre 1】ブリジット・ルボンさん 1948年生まれ 74歳
【Chapitre 2】マリエル・Kさん 1941年生まれ 81歳
【Chapitre 3】イヴ・クロードさん 1943年生まれ 79歳&ジャンヌ・クロードさん1944年生まれ 78歳
【Chapitre 4】カトリーヌ・ボナールさん 1940年生まれ 82歳
【Chapitre 5】(異世代ホームシェア) ジュリエット・ラフォレさん 1935年生まれ 88歳/アントワーヌ・ベイヤさん 2000年生まれ 22歳
【Epilogue】パリに暮らす、ある日本人女性のこと
〈Colonne 1〉 自分の顔に責任を持つために、拡大鏡と向き合う勇気を持つ
〈Colonne 2〉あなたを美しくするのは、あなたの手のひらです
■ゴダール敏恵さんプロフィール
ごだーる・としえ/1965 年生まれ。大学でフランス文学を学び、証券会社勤務を経て1999 年に渡仏。フランス滞在中にエステティシャンの仕事に興味を持ち、2001 年、エステティシャンフランス国家資格取得。さらに、大学病院がん病棟、精神病院、高齢者福祉施設やリハビリセンター等での研修を受け、2002 年ソシオ・エステティシャン(病院や社会福祉施設で働くエステティシャン)国家認定資格を取得。2004 年よりパリオペラ座近くのエステティックサロン店長を務める。2005 年からは、ポンピドゥー病院等でがん患者を対象としたビューティーレッスンを実施。高齢者福祉施設にてソシオ・エステティックにも取り組む。フランス在住23 年、エステティシャン歴20 年。
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