本を知る。本で知る。

「花見」実は比喩の一種だった。ふうゆ・かんゆ・ていゆって何?

ふだん使いの文章レトリック

 文章表現の基本である、比喩。「直喩」と「隠喩」があると国語の授業で習った記憶のある人は多いのでは。実は比喩には他にも種類があることをご存じだろうか?

 作家のながたみかこさんが文章の表現技法=「レトリック」を紹介している本『ふだん使いの文章レトリック たとえる、におわす、ほのめかす!?』(笠間書院)では、直喩と隠喩のほかに「諷喩(ふうゆ)」「換喩(かんゆ)」「提喩(ていゆ)」が取り上げられている。奥深い比喩の世界を覗いてみよう。


 まず、直喩と隠喩をおさらいしよう。

■直喩:なぞらえて明示する

 「彼女は太陽のように笑った」など、「まるで~ように」「~みたいに」などの語を使って、あるものになぞらえて表現する技法。

■隠喩:なぞらえて断定する

 直喩の「まるで~ように」がないもの。「今週は地獄のようだ」が直喩で、「今週は地獄だ」と断定するのが隠喩。卵黄を月になぞらえる「月見うどん」、博識な人物を辞書になぞらえる「生き字引」なども隠喩に当たる。

 ここまでは基本的な比喩表現。では、他の3つの比喩を見てみよう。


■諷喩:隠喩の連続で語り続ける

 一貫した隠喩の視点で書かれた文章。直喩や隠喩が「○○を××にたとえている」と文中ではっきりとわかるのに対して、諷喩は「ずっと××の話をしているように見えて、実は○○のことを言っている」と、前後の文やシチュエーションから察するのが特徴だ。たとえば、鴨長明の『方丈記』の冒頭が代表的だ。

行く川の流れは絶えずして、しかも本の水にあらず。(中略)世の中にある人とすみかと、またかくの如し。

 「河の流れは絶えることがなく、もとの水は常に移り変わっている。(ながたさん訳)」が諷喩の部分。河の話が実は比喩だったことを、「世の中にある人の運命や家もこれと同じことである。(同訳)」と直喩を使って種明かししている。

 寓話も諷喩の一つ。「ウサギとカメ」は、単なる動物のかけっこの話ではなく、人が目標を目指す時の姿勢を2匹になぞらえて「コツコツと頑張る者が最後に勝つ」と説く話だ。「井の中の蛙大海を知らず」など、諷喩が使われていることわざもたくさんある。


■換喩:隣接したもので表す

 直喩・隠喩・諷喩は似たものになぞらえる比喩だったが、次は少し違う。換喩は、「隣接関係にある事柄を使って表現する」技法だ。どういうことだろうか。

 代表的なのが「赤ずきんちゃん」。「赤ずきん」というアイテム名で、それを身につけている女の子を指している。ほかには、「芥川を読む」といった表現。「芥川」という人名で、芥川龍之介が書いた作品のことを指している。

 換喩は種類も使い方も複雑で、現在も明確な定義づけが難しいとされているそう。以下は、本書で挙げられている換喩の例だ。

・所属する世界......「クラシックを聴く」「マックを食べる」
・部分と全体の関係......「赤ずきんちゃん」「電話をとる」
・容れるものと容れられるもの......「鍋を食べる」「昨夜は5缶飲んだ」
・シンボルと意味......「キツネうどん」「敷居をまたぐ」
・土地との結びつき......「永田町」で国政 「西陣」で西陣織

 このように見てみると、日常的によく使っている表現だということがわかる。何気なく使っていても、定義づけるのは難しいものなのだ。


■提喩:大分類か小分類か

 提喩は大分類でそこに属する小分類を表す、または逆に小分類で大分類を表す技法。換喩の一種に分類されることもある。

 たとえば「花見」。花にはチューリップやひまわりなどたくさん種類があるが、「花見」と言うと桜を見ることのみを指す。「花」という大分類で、「桜」という小分類を指す例だ。

 「ご飯を食べる」の「ご飯」は、米粒のことだけを指しているのではない。米やおかずを含めた、食事全体を指している。これは「ご飯」という小分類で「食事」という大分類を指す例に当たる。

 富士フィルムのキャッチコピー「お正月を写そう」も提喩の一つだ。「お正月」それ自体は抽象的で、カメラに写せるものではない。「お正月」という大分類で、正月の行事や家族のだんらんなどの小分類を表している。

 「それも比喩の一種だったの!?」と思うものがあったのではないだろうか。日ごろ意識せずに使っている言葉に、面白いレトリックがひそんでいることがある。『ふだん使いの文章レトリック たとえる、におわす、ほのめかす!?』では、このほか35種のレトリックを紹介している。


【目次】
はじめに
1章 喩えを使って言葉にできないことを伝える
2章 極端な表現でユーモアを交える
3章 語や音を繰り返して強く訴える
4章 リズムを整えて詩的に表現する
5章 直接的な表現をさけて推測させる
6章 独特の演出で人の心を捉える
7章 逆の言葉を使い深みを持たせる
8章 曖昧な表現で揺れる心情を暗示させる
9章 一語を複数の意味に使い同音の妙を演出
10章 言葉の位置を変えて意味を際立たせる
11章 音や流れを整えてドラマティックに
12章 先行の文献を生かし説得力を持たせる
引用文献一覧
参考文献
おわりに

■ながたみかこさんプロフィール
絵本や童話などの児童書のほか、一般文芸や作詞など幅広く手掛ける作家。言葉遊びや日本の民話、妖怪などの面白さを子供向けにわかりやすく表現する作品が多い。著書に『日本の妖怪&都市伝説事典』(大泉書店)、『こわくてふしぎな 妖怪の話』(池田書店)、『裏切りの日本昔話』(笠間書院)など。



   
  • 書名 ふだん使いの文章レトリック
  • サブタイトルたとえる、におわす、ほのめかす!?
  • 監修・編集・著者名ながたみかこ 著、killdisco イラスト
  • 出版社名笠間書院
  • 出版年月日2023年2月25日
  • 定価2,090円(税込)
  • 判型・ページ数四六判・304ページ
  • ISBN9784305709813

実用書の一覧

一覧をみる

書籍アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

漫画アクセスランキング

DAILY
WEEKLY
もっと見る

当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!

広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?