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愛する男との別れを繰り返し、女は生きる。欲望と死の影渦巻く石見銀山が舞台の直木賞受賞作!

しろがねの葉

「男たちは命を賭して穴を穿つ。山に、私の躰に。」

 第168回直木賞受賞作『しろがねの葉』(新潮社)。著者の千早茜さんは、これで3度目の直木賞ノミネートとなった。選考会は1月19日に行われ、受賞が決まった。

「しろがねの葉」とは、銀の眠る場所に生えるといわれる羊歯(しだ)の葉のこと。舞台は戦国末期、シルバーラッシュに沸く石見銀山。本作は、千早さんにとって初の時代小説となる。

 島根県大田市にある石見銀山は、2007年に世界遺産に登録された鉱山遺跡だ。その名は知っていても、そこで人々がどんな暮らしをしていたのか......など想像したことはなかった。本作には「銀掘(かねほり)の病」など壮絶な描写もあり、歴史には光と影の両面があることを感じさせる。

 銀の気が視(み)えると謳われた天才山師・喜兵衛(きへえ)に拾われた少女ウメ。銀山の知識と秘められた鉱脈のありかを授けられ、女だてらに坑道で働き出す。しかし、徳川の支配強化により喜兵衛は生気を失い、ウメは欲望と死の影渦巻く世界にひとり投げ出された――。
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銀山のおなごは三たび夫を持つ

 千早さんは新潮社のインタビュー(村山由佳さんとの対談:「無の世界」の美しさを描いて)で、本作を「掛け値なしの挑戦作」と語っている。内容が濃く、実際は320ページなのに500ページに感じるほど、執筆は大変だったそうだ。

 なぜ、石見銀山を舞台にした時代小説を書こうと思ったのか。じつは、構想は10年以上前からあったという。本作の登場人物の言葉に「石見の銀掘はの、よう生きんのよ。銀山(やま)のおなごは三たび夫を持つと言われとる」というものがある。

 デビューして間もない頃、旅行のついでに立ち寄った石見銀山で、ガイドの人から「銀山の女性は三人の夫を持った」と聞いた千早さん。間歩(まぶ・銀山の坑道)で働く男たちは、肺を病んだり事故に遭ったりして長くは生きられない。女たちは夫を看取り、また結婚する、という意味なのだという。

「この言葉に触発されて、シルバーラッシュ最盛期を迎えようとしている戦国末期から江戸初期の石見銀山を舞台に、三人の男を愛し、看取った女の物語が立ち上がってきました。」(新潮社インタビューより)

間歩となって男たちを受け容れる

 その年は凶作で、ウメの両親は村からの夜逃げを決行した。しかし村人に見つかり、ウメだけがその場を逃れた。偶然たどり着いた銀山の間歩で、山師の喜兵衛に拾われる。

 ウメは、野性味があってたくましく、自立心の強い少女だった。そんなウメが成長し、愛する者との別れを繰り返して晩年を迎えるまでが描かれている。千早さんは当初、ウメの設定を「男を支えるタイプ」にしようかとも考えたそうだが......。

「次第に女人禁制の間歩に入らせたいと強く思うようになりました。(中略)間歩に惹かれ、間歩を追われ、最後は自らが間歩となって男たちを受け容れるウメという女が誕生しました。」(新潮社インタビューより)

すべて呑み込めたらええのに

 本作は重厚感のある時代小説で、言葉の意味や時代背景を確認しながらじっくり読んだ。いくつか読みどころがある中で、時代小説をあまり読まない人も(評者もその1人)、たとえば次の2つに注目して読んでみてほしい。

 1つは、女であることの悔しさ。「おなごか」と鼻で笑われ、「おなごじゃなければ良かったな」と無念そうに言われる。喜兵衛に間歩に連れていってもらうと、「おなごを入れてええんかの」という声が聞こえる。初潮を迎えると、「間歩の気が澱む」からと間歩を追い出される。ウメは叫んだ。「うちはおなごじゃのうて、ウメじゃ!」

 そして年頃になると、それまでとは別の悪意ある視線を向けられるようになる。男たちに凌辱される場面では、山に穿たれた間歩と、自身に空いた穴を重ねる描写が印象的だった。

「引き裂かれた、と思ったが、違う。穴を開けられたんじゃ、とウメは声にならぬ声で呟いた。ぽっかりした昏い空洞が、男たちによって躰の奥に穿(うが)たれていた。」

 もう1つは、悔しさもひっくるめて、受け容れて生きる姿勢。やがて妻に、母になったウメが、山を駆けて間歩に潜っていた昔の自身を「誰じゃったろう、ウメという名のおなごは」と別人に思う場面がある。それは諦めではなく「受容」の感覚で、ウメの人間的な深まりを感じた。

 やがて間歩の毒が夫を含めた銀掘たちの躰を蝕んでいく中、ウメは願う。

「呑み込めたらええのに、とウメは思った。(中略)この躰に呑み込んで、自らが間歩になってしまえたらいい。苦痛も渇望も生も死も、すべて闇に呑む間歩に。」

 歴史に名を残さなくても、そこにいたであろう人々を想像してみる。時代小説には、そんな楽しみもあるのだなと思った。

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著者の千早茜さん(c)新潮社写真部

■千早茜さんプロフィール

ちはや・あかね/1979年北海道生まれ。2008年『魚神』で第21回小説すばる新人賞を受賞し、作家デビュー。同作は09年に第37回泉鏡花文学賞も受賞した。13年『あとかた』で第20回島清恋愛文学賞を、21年『透明な夜の香り』で第6回渡辺淳一文学賞を受賞。他の小説作品に『男ともだち』『西洋菓子店プティ・フール』『クローゼット』『神様の暇つぶし』『さんかく』『ひきなみ』やクリープハイプの尾崎世界観との共著『犬も食わない』等。食にまつわるエッセイも好評で「わるい食べもの」シリーズ、新井見枝香との共著『胃が合うふたり』がある。


※画像提供:新潮社




 


  • 書名 しろがねの葉
  • 監修・編集・著者名千早 茜 著
  • 出版社名新潮社
  • 出版年月日2022年9月30日
  • 定価1,870円(税込)
  • 判型・ページ数四六判変型・318ページ
  • ISBN9784103341949

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