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子どもはわがまま? 大人も同じ。――『ぼくらは人間修行中』二宮敦人さんインタビュー

Mori

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ぼくらは人間修行中

 血も凍るホラー小説から華麗なる競技ダンスの潜入ルポまで、ジャンルを問わず独自の視点で数々の作品を世に送り出してきた作家の二宮敦人さん。9歳年下で、当時現役の藝大生だった妻の協力を得てまとめた『最後の秘境 東京藝大―天才たちのカオスな日常―』は累計40万部突破のベストセラーになった。新刊エッセイ『ぼくらは人間修行中 はんぶん人間、はんぶんおさる。』(新潮社)では、その妻との間に生まれた2人の子どもたちとの日常をユーモアあふれる視点で綴っている。子どもたちが「おさる」から「人間」へと進化していく過程で二宮さんが気づいたこととは。作家目線、パパ目線の子育ての面白さを伺った。

二宮敦人さん
二宮敦人さん

作品紹介はこちら(↓)

「ちょっとまぶしいから太陽へらして」4歳児の発想が悶絶級に愛おしい。子育て経験者に激推し!エッセイ

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『ぼくらは人間修行中 はんぶん人間、はんぶんおさる。』(新潮社)

人間って意外と思慮深いんだな

――エッセイでは長男のちんたんが4歳、次男のたっちゃんが0歳でしたが、2人は今いくつになりましたか?

二宮 ちんたんは6歳で小学生に、たっちゃんは3歳になりました。実は3人目の男児も生まれまして......。10ヵ月になります。

――おめでとうございます! 男の子が3人も......たいへんでしょう。

二宮 ええそれはもう(笑)。ちんたんも、「この家、おとこ多すぎじゃない?」って言っています。

――初めての弟ができた、たっちゃんの反応はいかがでしたか?

二宮 意外とクールでしたね。弟が泣き始めると、「お、お!」と言って教えてくれます。面白いのが、寝起きで機嫌の悪いたっちゃんを抱っこしている時でも、三男が泣き出すとやっぱりベビーベッドを指さして「お、お!」って言うんです。でも、僕が「ミルク作らないとね」って、たっちゃんを降ろすと泣いちゃう。抱っこしてほしい気持ちと弟の世話をしなきゃという責任感とがせめぎ合っているんでしょうね。子どもってもっとわがままなものと思っていたので、人間って最初から意外と思慮深いんだなと驚きました。

―― 弟なんか放っといて、自分だけを見てほしいって考えそうですよね。

二宮 そう、幼いなりに自分の役割をちゃんと考えている。立派です。子どもがわがままに見えるとしたら、理解力が未熟なだけかもしれない。たとえば、仕事中に延々と話しかけてくるのも、彼らには僕が忙しいということが理解できていないから。それってデスクワークの弊害なんじゃないかと。これが野良仕事とかイノシシと取っ組み合っているとかだったら、「見て見て~」なんてしつこく話しかけてこないですよね、たぶん。

 現代は仕事も高度で複雑になっているから、子どもが状況を理解するのは難しい。一方、大人は知識があるだけで、わがまま度合いは子どもと大差ないのかも、と思ったりもします。

子育ては人間観察。

――これまでさまざまな作品を書かれていますが、今回、子育てをテーマに選んだのはなぜですか?

二宮 僕は物事にハマりやすいたちで、イスラムの歴史だったりプラモの作り方だったり、気になったらとことん追究したくなるのですが、子どもにはそれらを超える驚きや面白さがあります。人間にはこういう側面があるんだとか、自分にも意外な一面があるんだということを発見して、ぜひそれを言葉にしておきたかった。

 子どもが生まれる前はホラーや推理小説を書くことが多かったのですが、漠然とこのままでいいのだろうかという焦りもありました。子どもを持って観察してみない限り、作家としてやっていけなくなりそうだという変な思い込みがあったんです。

―― ホラーや推理小説とは対極にある気もしますが......。

二宮 僕がホラー小説を書くのは、死が恐ろしいからです。殺人鬼やグロテスクなものも怖い。それらがなぜ恐ろしいのかを知りたいんです。逆説的ですが、自分が生まれてきたことがどのくらい素敵なことかを理解しないと、なぜ死ぬのが怖いのかわからないし、人が生まれ育っていくプロセスを知らずに小説の中で人を殺しても、それがどのくらい重い行為なのかしっくりこない。人間はいつから意思を持ち、倫理観や正義感を身につけるのか、犯罪者はなぜそれを失ってしまうのか、子どもたちの成長を見つめながら答えを探しています。

―― 何かヒントをもらえましたか?

二宮 そうですね。子どもたちを見ていると、正義感や倫理観といったものも生まれながらにある程度備わっている気がします。教えたわけじゃないのに弱いものを助けようとしたり、落ち込んでいると慰めてくれたりする。大人と何も変わらないんです。

 同時に、大人って思ったより子どもだなっていうのも、僕自身と照らし合わせて感じています。子どもに「お菓子ばかり食べちゃだめ」って言い聞かせるときは自分もガマンしますけど、見ていないところでこっそり食べちゃったり(笑)。父親の皮をかぶっているだけで、根っこの部分は子どもと一緒だなって。
「子どもたちの面白い言動は逐一メモしてます」
「子どもたちの面白い言動は逐一メモしてます」

―― 二宮さんにとって「父親」とはどんな存在でしたか?

二宮 なんとなく近寄りがたい存在でした。母とは口喧嘩ができるけど、父には反論しづらかった。でも、子どもができて父の印象がガラッと変わりました。孫と一緒になって子どもみたいに遊んでいる姿を見ていたら、こんな人だったんだ!って。

 きっと僕にも同じように接していたんでしょうね。思春期以降の印象が強くて、子どものころの記憶が薄れてしまったんだと気づきました。父は仕事に出ていて、母と比べて接する機会が少なかったですし。次第に距離ができてしまったけれど、父にも僕と同じく子どものような一面があるとわかったら、対等に話せるようになりました。

心配性の夫×ないものは作る妻

―― 二宮さんは子育てに深く関わっていらっしゃいますね。

二宮 実は長男の時はそうでもなかったです。2人目が生まれて妻1人ではたいへんなので、僕も関わるようになっていきました。最近でも忙しい日が続いて何日か相手をしないと、子どもたちに話しかけるきっかけが掴めなかったりするんです。僕と父もそうして距離ができてしまったのかもしれない。接することって大事だなって思います。

―― ちんたんが生まれた時、奥様は大学生だったんですよね。

二宮 藝大の3年生でした。結婚したのは彼女が1年の時。僕は躊躇したのですが、義理の両親はあっさり結婚を承諾してくれましたし、出産も、本人は「この期間は授業がないから大丈夫」といたって冷静で。作るものにもよりますが、実際、藝大の3年生って学校にはあまり行かなくてもいいらしく、家で子育てをしながら課題をこなし、卒業制作は息子をモデルに石膏像を完成させていました。

―― 本にもたびたび登場しますが、奥様のおおらかで自由な発想が素敵です。

二宮 僕はわりと心配性で、お菓子ばかり食べさせると栄養が偏るんじゃないか、こんな動画を見せたらよくないんじゃないかと細かいことがいちいち気になるのですが、妻は「いま元気ならとりあえず大丈夫」と割り切れる。上手に気を抜くことができる人です。

 ないものは作るという発想もすごい。極端なたとえですが、大災害で焼野原になってしまったら、僕は失ったものの大きさに愕然とするだろうと思うのですが、妻はきっと、がれきの中から使えるものを探して、これとこれでご飯を作ろうって考える。あのメンタリティにはかないません。
『ぼくらは人間修行中 はんぶん人間、はんぶんおさる。』より。©土岐蔦子
『ぼくらは人間修行中――はんぶん人間、はんぶんおさる。』より。©土岐蔦子

―― 「おさるの時代」に戻っても、奥様のようなパートナーがいれば心強いですね。一方で、今は子どもを生み育てることに不安を感じている方も増えています。育児の先輩としてエールを送るとしたら、どんな言葉をかけたいですか?

二宮 難しいですね。意外と何とかなる、というか......。
 たとえば、不安に感じる理由が、世の中で「年収○○円はないときつい」とか「最低でも大学は行かせないといけない」と言われている、あるいは「あのママのようにできる自信がない」「あのパパほどは稼げない」など外からもたらされるものであれば、いったん排除して考えても良いと思います。また、「本当は子どもが欲しくない気がするけれど、周りに言われるので作らなくちゃいけないと感じている」というのなら、慎重になった方がいい。外からの声に邪魔されて、自分の内なる声を素直に聞けなかったり、歪めてしまったりすることの方が怖いし、その結果に後悔すると思います。

 まずは自分の中からこみ上げてくる声を聞いてみてほしいです。「このパートナーと子どもを持ちたい」「自分の人生のどこかで、子どもが欲しい」「よくわからないけれど、子どもと暮らすのは面白そうな感じがする」と素直に思えるのであれば、「大丈夫、何とかなる」とお伝えしたいです。

■二宮敦人(にのみや・あつと)さんプロフィール
1985年東京都生まれ。2009年に『!』(アルファポリス)でデビュー。フィクション、ノンフィクションの別なく、ユニークな着眼と発想、周到な取材に支えられた数々の作品を紡ぎ出し人気を博す。『最後の秘境 東京藝大 天才たちのカオスな日常』『紳士と淑女のコロシアム 「競技ダンス」へようこそ』(ともに新潮社)、『最後の医者は桜を見上げて君を想う』シリーズ(TOブックス)など著書多数。

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※取材協力:新潮社


  • 書名 ぼくらは人間修行中
  • サブタイトルはんぶん人間、はんぶんおさる。
  • 監修・編集・著者名二宮敦人 著
  • 出版社名新潮社
  • 出版年月日2022年7月14日
  • 定価1,595円(税込)
  • 判型・ページ数四六判・240ページ
  • ISBN9784103502937

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