いろんな意味で、タフな人である。42歳で結婚、翌年「伝説の高齢出産」をした水野美紀さんは、母、役者、演出家として文字通り駆けずり回りながら、文筆業をもこなす。お子さんが0歳の時に、ウェブメディア「AERA dot.」で連載を始めた子育てエッセイは大きな反響を呼び、2019年に書籍化された。その後も連載は続き、22年9月には続編となる『水野美紀の子育て奮闘記 今日もまた余力ゼロで生きてます。』(朝日新聞出版)を出版。「高齢新米ママの満身創痍な日々」を綴った1冊目から3年の時を経て、さらにパワーアップした感がある。そんな水野さんに、最近の子育てエピソードを伺った。
現在、ママ6年目の水野さん。お子さんとのコミュニケーションがいっそう楽しくなり、「好きなものや嫌いなもの、得意なことや苦手なことが見えてきて、個性がはっきりしてきました」と話す。
最近のブームは水遊びや山歩き。自然のなかで遊ぶのが大好きだ。アニメも好きで、「クレヨンしんちゃん」や「ゲゲゲの鬼太郎」「ドラゴンボール」にもハマっている。「うちの子は、とても好奇心旺盛でおしゃべり。将来はどんなことに興味を持つのかな、と想像するのが楽しいです」と目を細める。
絵本の読み聞かせも楽しいひと時だ。しかしそこは役者。本気度が違う。キャラクターごとに声色を変え、「文章の6割が歌」という絵本はアドリブでメロディーをつけて歌う。
お子さんのお気に入りは柴田ケイコさんの「パンどろぼう」や、しおたにまみこさんの「たまごのはなし」で、何度も読んでとせがまれる。「最初はストーリーの展開を楽しんで、2回目からは面白いセリフやシーンなどのディテールを楽しんでいるようです。『パンどろぼうは、本当はネズミなんだよね~』と、私と秘密を共有しているような感覚らしく、ネズミが出てくる場面では一緒に盛り上がっています」。
おばけや妖怪が出てくる話や、昔話の鬼婆ものなど、少し怖い話にも興味津々。「最近では文字の多いものでも、ちゃんと音で聞いて頭の中に絵を想像しているのが分かります」。成長とともに興味の幅が広がり、反応が変わっていくのを見るのが楽しい。
多忙な日々は相変わらずだ。同業者でもある夫、唐橋充さんとスケジュールを調整しながら、手の空いているほうが家事・育児をこなす。「暗黙の了解で、お互いの仕事量が半々になるよう1週間単位くらいでバランスをとっています」。子どもの予定や用意が必要な物はスケジュール共有アプリとカレンダーで管理しているが、「不定期な予定が入ったり、突然変更があったり、イベントなども多々あるので、把握して共有するのにあっぷあっぷしています」と笑う。
そんな時、気持ちを分かち合えるのがママ友だ。年の離れたママ友との接し方に戸惑うのは「高齢ママあるある」だが(記者もその一人だ)、水野さんは実に朗らかに、ほどよい距離感でママ友づきあいをしている。秘訣を聞くと、「私はスケジュールがなかなか見えない仕事をしていますし、マメにメールのやりとりができる人間ではないので、そこをまず分かってもらえるようにお願いしつつ、ふと予定が合えば遊びましょー、というスタンスでお付き合いさせていただいています」と言う。子育てという共通項があれば、世代間の垣根は消える。「子どもも親も相性の良い友達は貴重な存在ですよね。本当にありがたいです」。
エッセイにもたびたび登場する夫の唐橋さんは、イラストレーターとしても知られ、本書の挿し絵も担当している。水野さんいわく「何をするにもこだわりが強くて凝り性」の唐橋さん。「連載を始める時に、毎週のことだから、なるべくシンプルなタッチで、短時間で描けるものにするよう話したのに、毎回、徹夜して描いていた」というイラストからは、お子さんへの温かいまなざしを感じる。
エッセイでとくに印象的だったのが、「親の背中を見せる」というエピソードだ。「親のがんばる姿を見せよう」と、お子さんを連れて唐橋さんのリハーサルの舞台裏を訪ねた時の話が面白い。顛末はぜひ本書で確かめていただきたいが、「はじめに」で水野さんは、思春期を迎える未来のお子さんにあてて、こんなふうに書いている。
<「親の威厳」なんてものは一朝一夕に身に付くものではないが、君が中学生になる頃には、少しは身に付いていることだろう。少しは頼りがいのある親の背中というものを見せられているんじゃないだろうか。...>
そこで水野さんに、「お子さんにどんな背中を見せていきたいですか?」と尋ねると、こんな答えが返ってきた。
「役者という仕事はとても面白いので、映像の現場でも舞台の現場でも、仕事場はたくさん見せてやりたいです。母としては抜けているところばっかりなので、反面教師になるのではと思っています。仕事をビシッとやっている姿を見せて、プラマイゼロになったらいいかな、なんて。」
■水野美紀(みずの・みき)さん
1974年三重県生まれ。女優・作家・演出家。87年芸能界デビュー。2017年第一子を出産。『踊る大捜査線』シリーズをはじめ、映画、テレビドラマ、CMなど、数多くの作品に出演。幅広いジャンルで活躍し続けている。また、何気ない日常をユーモラスにつづったエッセイも好評を得ており、本作は『水野美紀の子育て奮闘記 余力ゼロで生きてます。』の続編にあたる。その他の著書に『ドロップ・ボックス』『私の中のおっさん』『プロペラ犬の育て方』があり、自身が主宰する演劇ユニット「プロペラ犬」では脚本・演出を担っている。
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