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「叱る」はエスカレートする。

〈叱る依存〉がとまらない

 我が子、生徒、部下。誰かを「叱る」立場にある人、特に「きちんと叱らないとダメだ」と考えている人に、知ってほしい事実が二つある。一つは、「叱る」ということにはほとんど効果がないこと。もう一つは、「叱る」ことには依存性があり、どんどんエスカレートしていくということ。

 私たちが知らない「叱る」の正体を、臨床心理士・公認心理師の村中直人さんが、著書『〈叱る依存〉がとまらない』(紀伊國屋書店)で解説している。


私たちは「叱る」をよく知らない

 「きちんと叱らないとダメだ」と考える人は多い。たとえばレストランで子どもが騒いでいるときに、親に「なぜ叱らないんだ」という視線を送る人は少なくないだろう。また人に教える立場の人が、「きつく叱られる経験がないと成長しない」と考え、厳しく叱責することもある。村中さんいわく、彼らは「叱る」を過大評価している。「叱る」ことに、私たちが考えるほど成長や学びの効果がないことは、本書中で解説されている。

 反対に、「叱るのはよくない。かわりにほめよう」という考え方も近年人気だ。実はこちらも「叱る」の本質をとらえられていない。「叱る」ことは、「ダメ」なのではなくそもそも「効果がない」のだ。くわえて、かわりにほめようと言ったって、叱りたくなった事柄に対して、ほめ言葉は見つからないだろう。では、叱るかわりにどうすればいいのか。

 村中さんは、「叱る」に対して肯定でも否定でもなく、「うまく付き合う」ことが必要だと言う。なぜなら私たちは、効果がないとわかっていても、「叱る」ことをやめられないからだ。

「叱る」と、気持ちよくなる

 なぜ私たちは、「叱る」のをやめられないのか。そのヒントは、脳の「報酬系回路」にあった。

 「叱る」と、私たちの脳は報酬を与える。つまり気持ちがよくなるのだ。誰かを叱ったあとに、スカッとしたり、得意になったりした経験はないだろうか。叱る気持ちよさにハマると、人は〈叱る依存〉におちいっていく。

 虐待、DV、パワハラ、バッシング。〈叱る依存〉はさまざまな社会問題を生んでいる。私たちは、〈叱る依存〉とどう付き合っていけばいいのか。本書で〈叱る依存〉の詳しいメカニズムと、「叱る」こととの付き合い方を学んでほしい。誰にとっても、決して他人事ではない。


【目次】
はじめに
Part 1 「叱る」とはなにか
 1 なぜ人は「叱る」のか?
 2 「叱る」の科学――内側のメカニズムに目を向ける
Part 2 「叱る」に依存する
 3 叱らずにいられなくなる人たち
 4 「叱らずにいられない」は依存症に似ている
 5 虐待・DV・ハラスメントとのあいだにある低くて薄い壁
Part 3 〈叱る依存〉は社会の病
 6 なぜ厳罰主義は根強く支持されるのか?
 7 「理不尽に耐える」は美徳なのか?
 8 過ちからの立ち直りが許されないのはなぜか?
Part 4 〈叱る依存〉におちいらないために
 9 「叱る」を手放す
あとがき
〈叱る依存〉をより深く考えるためのブックリスト

■村中直人(むらなか・なおと)さんプロフィール
 1977年生まれ。臨床心理士・公認心理師。一般社団法人子ども・青少年育成支援協会代表理事。Neurodiversity at Work株式会社代表取締役。人の神経学的な多様性に着目し、脳・神経由来の異文化相互理解の促進、および学びかたの多様性が尊重される社会の実現を目指して活動。2008年から多様なニーズのある子どもたちが学び方を学ぶための学習支援事業「あすはな先生」の立ち上げと運営に携わり、現在は「発達障害サポーター'sスクール」での支援者育成にも力を入れている。著書に『ニューロダイバーシティの教科書――多様性尊重社会へのキーワード』(金子書房)がある。


※画像提供:紀伊國屋書店


  
  • 書名 〈叱る依存〉がとまらない
  • 監修・編集・著者名村中直人 著
  • 出版社名紀伊國屋書店
  • 出版年月日2022年2月 4日
  • 定価1760円(税込)
  • 判型・ページ数四六判・208ページ
  • ISBN9784314011884

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