北大路魯山人など、どの時代にもどの世界にも美食家と呼ばれる先人がいる。美食家はただ単に食べるだけでなく、調理法や素材の知識への探求も怠らなかったことで、食の文化的な一面を示しつつ、蓄積し、新たな楽しみ方までも提唱していった。
そんな綿々と続く食文化について思いを巡らすことになったのは、身近な国民食ともいわれるラーメンについての新刊『教養としてのラーメン』(青木健 著、光文社)を手にしたからだ。
本書は、本のカバーこそ「おいしいラーメン店ガイド」のように見えるが中身は全く違う。まず、本好きの方は皆さんやるのではないかと思われるが、カバーをとってみるとこの本の主題が姿を現す。そこには「ラーメンとは、」とシンプルに書かれている。
この本は、まさしく、日本のラーメン発展の歴史や店主のエピソードなどを盛り込んだ「ラーメンとは、」という問いに向き合った作品なのだ。
本書は、カラー画像とともにラーメンを20の系統に分類した、まるで図鑑のようなページからスタートする。ラーメンの分類というと、みそ、しょうゆ、塩、豚骨などの大分類的なイメージだったので、そもそも分類数が20に及ぶこと、しかも、その20でさえ基本的な分類というから驚いた。
さらに、ラーメン発祥から現在の多系統への発展が図解されている「日本ラーメン進化樹形図」も興味深い。知っているお店がどの系統にあるのか、読んでいて勉強になった。
また、本書には、普段の仕事でも活かせる、ラーメン店経営の哲学なども興味深い。例えば「春木屋理論」。いつも変わらない味というのは「客に気づかれないよう常に味を進化させる」たゆまぬ努力の下で成り立っている。美味しいものを何度も食べると感じ方が変わる、「感動とは必ず薄れるもの」だということから導かれた教訓だ。
そのほか、人に話したくなるような話題も興味深い。例えば、私の場合、ラーメン店の「96年組」。現代のラーメン店に多大な影響を与えた3店舗(中華そば 青葉、麺屋武蔵、らーめん くじら軒)が1996年にオープンしたのだという。
たまたま、麺家武蔵青山店とくじら軒には行ったことがあり、美味しかった記憶しかなかったが、歴史に残る店舗であるとこの本で知って、いまさらながら納得した。味だけでなく、居心地もよかったのだ。
このように、本書は、どのお店のどのラーメンが今人気なのか、というガイド本ではなく、ラーメンのおいしさに知識というスパイスを加えてくれるような立ち位置だ。
最後に、本書の後ろ側のカバーに描かれた、まるで写真のようなイラストに注目したい。
このイラストは、本書の著者、青木健さんが描いたもの。説明に『「らーめん/めん家」荻窪(閉店)』とある。このイラストにも、著者の青木さんと店主とのエピソードが隠れている。そのエピソードにふれたとき、なぜ、裏表紙にこの絵があり、そして写真ではないのか、なんとなくその意味が伝わってきた。
青木さんは「おわりに」で次のように述べている。
(本書は)「ラーメンの愛し方の本です」
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