いくつになってもつきまとう「友だち問題」――。
吉本ばななさんの著書『吉本ばななが友だちの悩みについてこたえる』(朝日文庫)は、タイトルどおりの1冊である。
吉本さんは若くして世の注目を集め、仕事上多くの人と関わり、辛酸も舐めてきた。一方、友人とのつきあいを大切にし、子育てをし、両親を看取り、50代に。
本書では、10代から60代の男女から寄せられた「友だちの悩み」に、吉本さんならではの「人生体験の厚み」でこたえる。
「この本は、『あまりに厳しすぎてびっくりした、とても全部読めない』という人と、『とにかく大好きでほんとうに役に立った』という人がはっきりと分かれたとても珍しい本です。(中略)同胞への愛みたいなものは、しっかりこもっていると思っています」
本書は、2018年に単行本として刊行されたものを文庫化したもの。
普通の主婦ではない。職業も一般的ではない。すごく早いうちに独立し、実家も一般的な家ではない。「友だち」というテーマでじっくり考えたものの、「一般的なまとまりのよい答えが一切自分のなかにない」という吉本さん。
答えるすべてのことが「それは吉本さんの環境だからでしょ」と言われたら「もうおしまい」の状況で、逆に、吉本さんが問いかけたいのは「もし私のいる別の枠の中の場所から見たら、あなたはどんな風に見えると思う?」ということ。
「例えば宇宙人が地球にやってきてみんなを見たらどう映るか? みたいな感じのことを言える部分が私にはあると思うんです。そんな風に別の角度から光が当たると、今苦しんでいることが簡単に解決できることもあると思います」
本書は、なかなかディープな36の「友だちの悩み」と「具体的な処方箋」を収録。自分の抱えている悩みと重なるものもあれば、好奇心をそそられるものもあるだろう。
■友だちの悩み(抜粋)
・仲のいい友だちが結婚したり好きな仕事をしたりしていることを妬んでしまう。
・突然友だちに無視されたり裏切られたりして、人間不信に。
・ママ友とはどのように接したらいい?
・子どもが友だちづきあいで悩んでいる。介入したほうがいい?
・女友だちから「不倫交際している」と打ち明けられた。
・女友だちは仕事をしながら、結婚、出産した。自分は独身で、話が弾まない。
・同性の親友に恋愛感情を抱いている。
例えば、「私は小学生の子どもを持つ母親です。自分の子どもがクラスメイトとの人間関係に悩んでいることに気がついたときに、親は介入したほうがいいでしょうか?」という悩み。
吉本さんは基本的に「介入しない」姿勢だが、息子には折に触れて「本当に辛いことがあったらすぐ私に言ってね」と伝え、あとは信じて待つ。最悪の事態になったときに親を頼ってくる、そうした「信頼関係」を築くことは日々の努力でできるという。
「大変な事態に発展してしまった、もうそのときは、子どもはかなり混乱していてうまくSOSが出せません。そんなときでも子どもが何かしらのサインを出せる、話しやすい状況をいつも作ってあげてください」
次に、「大学時代からつきあいが続いている仲のいい女友だちがいます。(中略)彼女は結婚をして子どももいますが、私は三〇代後半の独身で恋人もいません。(中略)私は置いてけぼりにされた気持ちに」という悩み。
自分が赤ちゃんから大人になるまで、親との接し方や距離感も変化していく。それでも、親子の間にずっと「愛情」があることは変わらない。同様に、ライフステージが変化したときに友だちとの間に「愛情」がなければ、関係は継続できないという。
「関係のコアになるものは『愛』です。それがない状況でほしい、ほしいと言っていても、何も育たないと思うんです。『愛』を自分の中に見つけてみてください」
「時は流れているし昔には戻れない。それはしょうがないことです」――。「時の流れ」ということが何度か出てくるが、まさにそうだな、と思った。
本書には、友だちづきあいのヒントがゴロゴロ転がっている。自分の身に同じようなことが降りかかったとき、ここで読んだことを思い出すだろう。過去を振り返ったり未来をシミュレーションしたりしながら、興味深く読んだ。
■吉本ばななさんプロフィール
1964年東京都生まれ。小説家。日本大学藝術学部文芸学科卒。87年「キッチン」で第6回海燕新人文学賞を受賞し、デビュー。88年『ムーンライト・シャドウ』で第16回泉鏡花文学賞、89年『キッチン』『うたかた/サンクチュアリ』で第39回芸術選奨文部大臣新人賞、『TUGUMI』で第2回山本周五郎賞、95年『アムリタ』で第5回紫式部文学賞、2000年『不倫と南米』で第10回ドゥマゴ文学賞を受賞。著作は30カ国以上で翻訳出版され、海外でも数多くの文学賞を受賞している。近著に『吹上奇譚 第三話 ざしきわらし』がある。noteで配信中のメルマガ「どくだみちゃんとふしばな」をまとめた文庫本も発売中。
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