ピン芸人のバイク川崎バイクさん(愛称・BKB)は、緊急事態宣言下の今年4~5月にかけて50日間ほど、毎朝4時頃から小説を書き出し、午前8時19分(バイク)にメディアプラットフォーム「note」に投稿する日々を送っていた。
すると、5月中旬には3つほどの出版社から書籍化の話が舞い込み、異例の速さで8月中旬に書籍化が実現。本書『BKBショートショート小説集 電話をしてるふり』(ヨシモトブックス 発行、ワニブックス 発売)で作家デビューを果たした。
本書は、SNS上で大反響を呼んだ表題作「電話をしてるふり」のほか、「note」に投稿したショートショートを厳選し、書き下ろしを加えた全50作品を収録。恋愛、ミステリー、SFなど、感動作からブラックコメディまで、「多彩なジャンルで魅せる大どんでん返しの連続にもう一度読み返したくなってしまうこと間違いなし!」の超短編小説集となっている。
バイク川崎バイクさんは1979年生まれ、兵庫県出身。NSC大阪校26期生。美容師として3年間勤務したのち、2003年に地元の友人とNSC入学。コンビ「100デシベル」「街の帽子屋さん」を経て、07年よりバイク川崎バイクとしてピンでの活動を開始。「R-1グランプリ2014」決勝進出。何でも略したら「BKB」になるネタがあり、座右のBKBは「ブルーな気持ちブッ飛べ」。
BKBも斬新だが、ショートショートって? という人もいるだろう。田丸雅智さんは著書『たった40分で誰でも必ず小説が書ける 超ショートショート講座 増補新装版』(WAVE出版)で、現代ショートショートの定義を「アイデアと、それを活かした印象的な結末のある物語」と提唱している。分量については断言がむずかしいものの、ショートショートを扱った文学賞では、2000~4000字程度以内が多いという。
「ミステリー小説や叙述トリックの含まれたお話を読むのは好き」というバイク川崎バイクさんは、星新一さんが大好き。また、「ショートショートは何かと何かを足せば作れるって、ショートショート作家で有名な田丸雅智さんが『情熱大陸』で言ってたので(笑)」とも書いている。他のショートショート作家を意識することもあるようだ。
本書の帯文を書いたのは、吉本ばななさん。バイク川崎バイクさんが直接連絡したところ、二つ返事で快諾してくれたという。二人にどんな接点が? と思ったら、実は、吉本ばななさんはバイク川崎バイクさんの単独ライブを毎年「こっそり見にきてくれる隠れBKBチルドレン」なのだとか。
「BKB ばなな 感心 びっくり!
彼はいつも少しだけ哀しい、別の世界を見ているんだね」
バイク川崎バイクさんは「基本、不思議で優しいお話が好き」としているが、ハッピーエンドの作品とともに、なかにはドキッとして終わる作品も。「いつも少しだけ哀しい」に同感した。
本書で初めてバイク川崎バイクさんのことを知った評者は、なぜ芸人さんが小説? しかもショートショート? と気になってしまい、あとがきから読むことにした。
まず、なぜ短編小説を書いたのか。前述したとおり、昔から読むのが好きで、書くことにも興味があったという。意識したのは、誰が読んでも「スッと読みやすい文体で書くこと」「ショートショートに慣れてない人にもわかりやすい作品も混ぜ込むこと」。
「オチに裏切りがあり、なおかつ短い話、それならお笑いのファンの方もそうじゃない方も、そして活字の苦手な方にも広く読んでもらえるかも。その思いに、緊急事態宣言で家に2ヵ月はいないといけない、そんな状況が加わり、本腰を入れてみました」
本書に収録されているショートショートは、1作品あたり1000~4000字。短いものだと、2ページで完結。たしかに、このアップテンポな展開と、オチ(印象的な結末)があるという点で、お笑いとショートショートは近いかもしれない。
コロナ禍で仕事がキャンセルになるなど、芸能界も影響が大きかったと聞く。多くの芸人がSNSでネタや動画を発信するなか、バイク川崎バイクさんは、徐々に作品の反響が広がって嬉しい反面、「芸人が何をやってるんだ、もっとおもしろ動画とかをあげるべきでは?」と冷静に考えてしまうこともあったようだ。
そんなとき、同期のしずる村上さんから言われたひと言が、「BKBがこんな話を書いてること自体が壮大なボケになってる」――。この「トンチみたいな称賛の言葉」のおかげで、吹っ切れて書き続けることができたという。
巻末にあるBKB「バイクが 簡単に バッとレビュー」は、「BKBが全作品を簡単にレビューというか裏話というかそんな感じヒィア!」となっている。
ここでは、表題作「電話をしてるふり」を紹介しよう。人通りのない夜道を一人で歩くとき、スマホを持って誰かと連絡している"ふり"をして、自己防衛している女性も多いのでは?
主人公の私は、よくナンパされる。最寄り駅から家までの徒歩15分の薄暗い道、よく声をかけられる。「ああ。ナンパだりぃ」と思っていると、チャラついた男が声をかけてきた。こんなとき、私は決まって電話をする"ふり"をする。
「ああ、もしもしごめんパパ。もうすぐ帰るよ。うんうん。そうだねうん。迎え? あ、どうしようかな。来てもらおうかな。ええと、今はね......」
「相手にガン無視決め込んでたら、たいていの男は舌打ちしながらも、すごすごと引っ込んでくれる」。ところが、今日のはしつこい。もうすぐ家に着いてしまう。私は怖くなってきた。
男「それ、ほんとに電話してる?」
私「電話してますって」
男「じゃあ電話代わってよ?」
「もしもーし。パパさんですかーー?」
「もう最悪。バレた」と私が観念したとき、事態は意外な展開を見せる。実は、私が11歳の頃、警官だったパパは殉職した。パパに電話をすることは叶うはずもなく、電話をしている"ふり"をせざるを得ないのだった。そうした事情が隠されていたのだが......。本作は、長めの10ページ。ここで止めておくが、バイク川崎バイクさんにとってターニングポイントとなった作品に違いない。
「これのおかげで、たくさんの人が読んでくれるキッカケにもなったし、書籍化することにもなったし、(中略)本当に父親がお亡くなりになられた方からも『素敵なお話をありがとうございます』と言ってもらった。芸人しててそんなことを言われるとは思ってもなかった」
そして、本書をこう締めくくっている。「BKB」は案外いろいろな言葉を略せるようだ。
「2020年、世の中はまだ大変な時期でありますが、最後に、読んでくれた皆さんが
B病気も Kケガもせず B無事笑って過ごせますよう!
~文章 完 文章~」
本書を読みながら、ショートショートは短時間で思いもよらない世界に連れて行ってくれるエンターテインメントだと感じた。物語の設定もテイストも、コロコロ変わりワクワクした。最近はお笑い+αで活躍する芸人さんが増えている。バイク川崎バイクさんのショートショート作家としての動向に注目したい。
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