認知症が進行すると、問題になってくるのが「お金」だ。もし家族が認知症になり、自宅での生活が難しくなったら、自宅を貸すなり売るなりして介護費用に充てよう、と考えている人は要注意。いざ「その時」がきてからでは遅い。というのも、持ち主の判断能力がしっかりとある状態でなければ、契約が成立しないからだ。
本書、『認知症に備える』(自由国民社)は、こうしたケースをもとに、認知症になる前に、何をしておけばよいのかを、詳しく、ていねいに解説している。
著者はジャーナリストの中澤まゆみさんと、司法書士の村山澄江さん。中澤さんは、自らの介護体験をきっかけに、医療・介護・福祉・高齢者問題をテーマに執筆活動を行っている。一方、村山さんはこれまで認知症対策の相談に、のべ1300件以上対応してきた民事信託・成年後見の専門家だ。
本書では、備えていた人と、備えていなかった人とで明暗が分かれた例を紹介している。
両親のもの忘れが気になり始めた光子さん(仮名・52歳)は、司法書士に相談。家の管理を家族に任せる方法(家族信託)をすすめられ、両親と話し合い、手続きを行うことに。光子さんは信託契約に基づき、①父親名義の土地建物を自分名義に変更、②父親専用の預貯金口座を開設し、自分が管理できるようにした。しばらくして父親が認知症を発症。その後、両親2人での自宅暮らしが難しくなった段階で実家を売却し、その資金で父母ともに、スムーズに施設に入所できた。
一方、両親ともに「まだ元気だし」と何も対策をしていなかった菊枝さん(仮名・52歳)は、父が認知症を発症し、日常生活が困難になってはじめて、父親の定期預金を解約し、入所できる施設を探し始める。しかし、銀行から「成年後見人をつけないと解約できない」と言われてしまい、ひとまず母親と自分の貯金を切り崩して施設の入居金を支払うことに。自宅の売却も同様で、成年後見人を選任するしか選択肢がなくなっていた。
成年後見人制度は、ご本人の財産を守るためにできた制度ですが、それを利用することがご本人やご家族にとって一番いい選択だとすべてのケースで言い切れるわけではありません。状況によっては、認知症になる前なら選択することができた家族信託や任意後見制度の方がよいケースもあります。ですから、ご家族が後悔しないためにも、元気なうちにしかできない対策を元気なうちに知ってもらい、対策を考えたおいてほしいのです。――(村山澄江さん・「はしがき」より)
これまでは「何もわからなくなる」「問題行動で家族に苦労をかける」といったネガティブなイメージで語られてきた認知症だが、必ずしもそうとは限らない。認知症になって困ること、困らないことを事前に把握し、早めに手を打っておくことが大切だ。
本書では下記のような、自分自身や親が「元気なうち」にやっておきたい対策をまとめている。
・認知症とは何か正しく理解する
・早期発見、治療、対応のためのチェック方法
・認知症になったらどんなことに本人が困るのか、もしくは困らないのか
・介護サービスの手続き
・お金や法律のこと、相続手続き
・成年後見人制度、家族信託の仕組みや利用の流れ など
イラストや図解で自分に必要な手続きや作業をすぐに把握できるようになっている。あなたの家庭での認知症対策はどれほどできているだろうか。
認知症の前段階とされるMCI(軽度認知障害)を含めると、高齢者に3人に1人が認知症に関わる時代が訪れようとしている。親や自分が元気なうちに、お金や相続の手続きの制度や早期発見の方法を知っておきたい。
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