「小説現代」2021年7月号で新作小説「MILK」を発表した大木亜希子さん。前回「同性でしか味わえない官能と癒しの世界 大木亜希子インタビュー(1)」では、作品「MILK」に込めた想いなどを聞いた。
第2回となる今回は、彼女の作品を原作にして描かれたコミック『つんドル! ~人生に詰んだ元アイドルの事情~ 』(祥伝社)について、ササポンの存在を含めてお話を伺った。
―― ついにコミック化されましたね。おめでとうございます。コミックをご覧になって、原作者としての感想は?
大木 ありがとうございます。
飯田ヨネ先生の絵がとても素敵で、女性ならではの生き辛さや繊細さを見事に表現してくださって感動しました。
原作も30代を目前にした女性の悩みや葛藤をかなり赤裸々に綴った作品なので、例えば、心を殺しながら"オンナ"を武器に取引先の男性にぶりっ子してしまうなど、読者の皆さんが「私も似た経験がある」と共感してくださるような物語に仕上がっていますし、物語の世界観をキャッチしていただけないと書けない描写だと思いました。
―― イメージ通り。原作者としても嬉しい仕上がりだったのですね。
ストーリーも、第1巻は原作に忠実な気がします。
原作『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』(祥伝社)については、これまでもお話を伺ってはいますのであらすじは割愛しますが、あらためてこの作品で伝えたかった想いをお聞かせください。
大木 現在、この作品を書いてから3年が経過しています。その頃の私は「職なし、彼氏なし、貯金なし」という状態でした。会社員としてバリバリ働いていたのですが、周囲と自分の環境を比較して焦ってばかりで心を壊してしまって...。
そんな当時の私のような境遇を抱える女性も少なくはないと思うんです。私と同じような経験をして困った境遇の方がお読みになった時、少しでも励みになれる作品になればと思って執筆しました。
辛くて、今は光が見えないトンネルの中だとしても、将来はきっと明るい光が見えてくる。充実した日々が訪れると思ってもらえたら嬉しいです。
―― そんな思いを込めた本作で、切っても切れない登場人物、謎の同居人のおじさん「ササポン」についてもお聞かせください。
大木 ササポンは、当時57歳の一見するとどこにでもいそうな普通のおじさんです。姉の紹介でルームシェアすることになったんですけど、彼はいい意味で、私にとってはフラットな存在です。
私はササポンに何も期待していないし、ササポンも私に何も期待していない。ただお互いそこにいるだけの関係です。しかし、そんな2人が結託した時のパワーはものすごいです。たとえば、私がササポンに恋愛相談をしたら、あらゆる人生経験を積んだ50代半ばの彼だからこそ、私にとって良い答えを導き出してくれる。
私自身も、今、若者の間で流行っているカルチャーを、彼に教えたりすると、彼もそれが刺激になると言ってくれます。
年齡を越えた、文化の交流ができるんですよ。
そして、ササポンは、私に説教じみたことは言いません。でも、適切なリスク管理のアドバイスと、解決方法のヒントをくれます。「だめだ」というのではなく、「こうしたらいい」というヒントをくれるのです。
さらに、もう一つ、ササポンはさりげない優しさの持ち主です。押しつけがましくない、必要なタイミングで手を差し伸べてくれる優しさを持った人。それは同居してから3年間、何度も感じました。
―― ササポン。素敵なおじさまですね。コミックスの中でも、どう描かれているのか気になります。
さて、そんなササポンと暮らす中で大木さんが得たものとは何ですか?
大木 得たもの。それは何といっても、「まあいいやの精神」です!
「まあいいやの精神」というのは、完璧じゃなくてもいいという考え方です。成功しなきゃいけない、結果を出さなきゃいけないということに追い込まれる必要はなく、そんなことはどうでもいいと気付いたことです。
ササポンと住む前までの私は、アイドルとして大成しなかったので、セカンドキャリアで選んだ会社員としての道で何が何でも絶対に成功しなければいけないと思い詰めていました。一種の強迫観念ですね。
でも、自分の身体を壊してまで頑張る必要はないし心が壊れるまで働く必要はない、ということに気づくことが出来ました。
ササポンも、「まぁ適当に」という割り切りを持っていました。
―― 逆に、失ったものは?
大木 失ったものは、もう独りでは住めない体質になってしまったことです(笑)。
誰かと一緒にいることの化学反応を知ってしまったので、これからは誰か同居人がいないとだめでしょうね。
―― ササポンとの暮らしは、大木さんにとってとても重要な時間なのですね。大木さんらしくいられる時間だったのだと感じます。
そんな暮らしのこと、コミックスだけでなく、ドラマ化してもマッチしそうな作品ですね。
大木 そういっていただけると嬉しいです。
ありがたい話で、実際に映像化のお話はいくつか頂いています。
―― やっぱり! そうなるとササポンのキャスティングとか作家として想像するのも楽しみですね。
大木 ササポンは眼鏡をかけた中肉中背で、よく小日向文世さんに似ていると言われます。もし映像化されるとしたら、どんな方がキャスティングされるのか、とても楽しみです。
―― コミックスを拝見すると、いいセリフがいい絵で出てきます。原作小説と合わせて読むと2度おいしく、映像化されたら3度おいしいですね。どんな形で実現するのか、今から気になります。
―― 次の作品のテーマについて聞いてもいいですか?
大木 ライターとしては、女性が社会の中で遭遇しやすいハラスメントやジェンダーバイアスなどについて取材し、女性の生きづらさ、そして、その克服について掘り下げられるようなノンフィクション作品にチャレンジしたいと思っています。
小説家としては、30代の恋愛と性について深堀していきたいと思っています。たとえば、不倫していたとして、やがて不倫が終わった後でも、そのときを思い返せばいつの時代も楽しかったよね、と思えるような恋愛と性など。『小説現代』で書いた『MILK』のように、創作だから書けるのですが。
―― ノンフィクションもフィクションも構想があると聞いて、次作が楽しみになりました。大木さんらしい、30代女性の描く情景描写に期待しています。
最後に、この記事をご覧のみなさまにひとことお願いします。
大木 本作は、「結婚、出産、キャリアに悩むけど周囲に弱音を吐けない」と思っている女性に「ひとりじゃないよ」ということを伝えたくて生み出しました。
コミックスにも出てくるササポンは、女性の人生を救ってくれる親切なおじさんではありません。本作は、私という傷ついた女性が自分自身で立ち直った物語です。
私が立ち直っていく過程の中で、たまたまそばににいてくれたのがササポンなのです。
そして、ササポンだけではなく、家族や友人など身近な存在に救われたことや、私自身が自分で一歩を踏み出す勇気を養えたことも、本作で伝えていきたいメッセージです。
今、とても辛い思いをしていたとしても、きっと自分自身で立ち上がることができると思います。『つんドル! ~人生に詰んだ元アイドルの事情~ 』(祥伝社)を読んだことで「まぁ、明日も頑張ってみるか」と少しでも思える読者の方が少しでも増えたら原作者冥利に尽きます。
本日はありがとうございました。
大木さんが原作を執筆した『つんドル! ~人生に詰んだ元アイドルの事情~ 』(飯田ヨネ、大木亜希子 著/文、祥伝社)は、紙版、電子版ともに第1巻が好評発売中。
■プロフィール
大木 亜希子 (おおき あきこ)
1989年生まれ。15歳から芸能活動をスタートさせ2005年にドラマ「野ブタ。をプロデュース」(日本テレビ系)で女優デビュー。2010年、20歳でアイドルに転身しタレント活動と並行してライター業も開始。15年からは会社員として執筆業務を担当し、18年にライターとして独立。著書に『アイドル、やめました。AKB48のセカンドキャリア』(宝島社)、『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』(祥伝社)がある。
新刊コミック『つんドル! ~人生に詰んだ元アイドルの事情~ 』(祥伝社)は、『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』を原作としている。
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