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同性でしか味わえない官能と癒しの世界 大木亜希子インタビュー(1)

 「小説現代」2021年7月号は、「NEO官能小説特集 性と生のあわいに」と題して、官能小説を特集している。表紙も、ベッドで背を向ける男にゆるめに抱きつく女性が描かれた、なかなか刺激的なカットだ。

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写真は、「小説現代」2021年7月号(講談社)

 文学で性はタブーではないことは重々承知しているが、今回、大木亜希子さんのインタビューに先立ち、NEO官能小説特集を企画したその意図を、小説現代編集部に聞いてみた。

 問いに対し、担当編集者の一人は次のように語ってくれた。

 性の部分は人間の価値観が見えやすく、作者自身の欲望に関する思考がよく描けるため、センシティブではありつつも、創作に当たって刺激的で面白くなる可能性を多分に秘めていると考えました。

 7月号の特集は、直木賞作家の桜木紫乃さんや、小説やゲームなど多彩な活躍をされている丸木文華さんなど多数の魅力的な書き手が参加しており、読み応えのある内容になっている。
 BOOKウォッチ編集部では、その中の書き手の一人、作品「MILK」で特集に参加した大木亜希子さんに、作品で伝えたかったポイントや思いについて話を聞いた。

写真は、「MILK」作者の大木亜希子さん(撮影:BOOKウォッチ編集部)

―― 今回の作品「MILK」はこれまでの作品に比べてもかなりセンシティブな内容を描いていますね。

大木 主人公の楓は食品メーカー営業部のエースの32歳です。営業部で実績を上げながら、報われない社内不倫を続け、その満たされぬ日々のなかで新たな歓びを見出します。
 本作は、不倫や女性による女性向けの性風俗サービスをとりあげています。私自身は不倫という行為にもちろん反対ですが、それでも描いた理由として「時に人間は、振り向いてもらえない相手に心惹かれてしまう危険性を常に孕んでいる」ということを表現したかったからです。

―― 女性による女性向けの性風俗サービスについては?

大木 女性による女性向けの性風俗サービスについては、「男性で傷ついた女性の心は、男性では癒せないケースがあるのかもしれない」という心情を表現したかったのです。
 もちろん全ての男性に対して「女性を癒やせる能力がない」と言いたいわけではありません。しかし傷ついたとき、そっと優しくしてくれた男性に、実はそのあと傷つけられたという経験のある女性もいらっしゃると思うのです。

 そして、もうひとつ。
 この小説の執筆にあたって取材させていただいた皆さんの話を聞くうちに、女性による女性向けの性風俗サービスについては、「性」的に満たされることだけでなく、たとえ「性」で満たされなくても、「生」が満たされる世界があることも知り、その部分も大切に伝えたいと思いました。

―― 「生」が満たされるのですね?

大木 そうです。相手のことを何も知らない女性同士が出会い、その時間の中で会話をしているだけでも気持ちが満たされるという意見が複数ありました。
 一方、心の隙間を埋めるために、男性とワンナイトを過ごして、そのあとに後悔が付きまとったケースを聞いたこともあって。
 そんな話を聞きながら、異性に頼らなくても生が充実する世界があることを知ったのです。
 楓も最初は不倫相手のことを忘れたくてサービスを利用するのですが、そこでナオというレズビアン風俗店に務める女性に素の自分をさらけ出すことで、だんだん自分を見つめなおす契機をつかんでいきます。
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写真は、「MILK」作者の大木亜希子さん(撮影:BOOKウォッチ編集部)

―― 大木さんは、今までの作品でも同世代の女性の生きづらさについて描いてきました。今作でも、それは同じですね。

大木 そういうふうに読んでいただけたら冥利に尽きます。
 私の周囲の女性たちを見ていると、仕事ができて、実績もあり、職場の評価でも優秀と思われている女の子ほど、傷つきやすい状況に陥りやすいと危惧しています。
 ちょうど30歳に差しかかる頃、仕事が命というくらい楽しくて、実績も出ている間に、プレッシャーやストレスが心のうちに蓄積していきます。そして、仕事のポジションも上がっていくと、周りには妻帯者が増えてくる。
 そんな中で、女性がつらい状況に遭遇すると、優しく声をかけてくれたり、フォローしてくれる男性に惹かれて自分を見失うこともあると思います。例えそれが恋をしてはいけない相手であっても。

―― だから、女性が傷つかないように作品の中で不倫の行く末を描いたのですね。そして、同性に癒されることも添えて。

大木 はい。そうなのです。
 女性がつらい状況に遭遇したら、恋愛を別の恋愛で埋めようとするのではなく、異性ではなく同性とのふれ合いで「生」を充実させる選択肢もあるかなと。

―― この作品のエッセンスについては、だいぶお聞きしてしまいましたが、「MILK」で表現したかったことはほかにもあると思うのです。そこで、単刀直入の質問ですが、大木さんが「MILK」というタイトルに込めたものはなんでしょうか?

大木 その答えは、母性です。
 この物語では(ネタバレになりますが)、主人公の楓は10代のとき、母親が家を出ていったという過去があります。母の愛情を知らないまま大人になってしまったのです。
 そんな楓がどういう風に他人や自分を愛していくのか、そこを軸に書き上げました。
 身を滅ぼす恋をした楓は女性による女性向けの性風俗サービスを受けたことがきっかけで、やがて自分も女性向け風俗サービスを提供する側になります。自分も同性である女性の心を満たそうとするのです。
 彼女は、先天的な母性だけでなく、後天的な母性が自分の中でどんどん生まれてくることを実感し、最後には自分なりの答えに到達します。そうした作品のテーマを「MILK」というタイトルに込めています。

―― 傷ついた女性の心をいやせるのも、母性なのですね。

大木 そうしたケースもあると思います。
 この物語は、「性」に向き合ったことで自分を見つめなおし、新たな自分を発見していく物語です。傷ついてしまった女性が、自分自身で一歩一歩を選択し、やがて立ち上がり、そして、他者に母性を与えていく姿を描きました。
 頑張っている多くの女性が傷つかないように、応援歌としても読んでいただけたら幸いです。
写真は、「MILK」作者の大木亜希子さん(撮影:BOOKウォッチ編集部)

 本日はありがとうございました。

 大木亜希子さんの小説「MILK」は「小説現代」2021年7月号に収録されています。結論が全く想像できないストーリー展開。ぜひ、ご一読ください。

 なお、「MILK」は、「読むエクスタシー 新・官能小説集 Kindle版」にも収録されています。

※参考リンク 「読むエクスタシー 新・官能小説集 Kindle版」

 大木亜希子さんインタビュー、第2回は、新刊『つんドル!~人生に詰んだ元アイドルの事情~ 1』(祥伝社)についてお聞きします。コミックスで描かれるササポンも気になります。お楽しみに。

(第2回に続く)

■プロフィール

g 大木 亜希子 (おおき あきこ)
1989年生まれ。15歳から芸能活動をスタートさせ2005年にドラマ「野ブタ。をプロデュース」(日本テレビ系)で女優デビュー。2010年、20歳でアイドルに転身しタレント活動と並行してライター業も開始。15年からは会社員として執筆業務を担当し、18年にライターとして独立。著書に『アイドル、やめました。AKB48のセカンドキャリア』(宝島社)、『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』(祥伝社)がある。
 新刊コミック『つんドル! ~人生に詰んだ元アイドルの事情~ 』(祥伝社)は、『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』を原作としている。



 

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