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男女の一線を越えた先に何が見えたのか/「シナプス」大木亜希子インタビュー(1)

 15歳から芸能活動を始め、かつてアイドルグループSDN48にも在籍していた大木亜希子さん。

 昨年発表した著書『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』(祥伝社)は、多くの女性から支持され、テレビでも話題になるなど、作家としてもキャリアを重ねている。そんな大木さんが、7月21日発売の小説現代2020年08月号(講談社)で新作「シナプス」を発表した。

 本作で取り上げるテーマは、妻のある男性と編集者・週刊誌記者である女性との一線を越えた関係だ。

写真は、小説現代2020年08月号(講談社)

 BOOKウォッチ編集部では、「シナプス」の発表に先立って、執筆のテーマや、作品に込めた思いについて大木さんに話を聞いた。

―― どんなテーマで描こうと思ったのですか?

大木 講談社さんのおすすめもあって、はじめはアイドルの話を書こうと思っていました。しかし、アイドルの話はこれまでで書ききったと思い、あえて、連日のようにメディアが報じる不倫というテーマと、「週刊誌の裏側」について書いてみたいと思いました。不倫にからめて、3つのテーマを持って作品に臨みました。

―― それはどんなテーマでしょうか。

大木 1つめは、「身を滅ぼしてしまいそうな恋愛をしてしまう30歳前後の女性の心理描写」です。
2つめは、「芸能活動をしていくうえで体を求められてしまう女の子の寂しさと立場の弱さ」
3つめは「恋に傷ついた一人の女性が自立してキャリアアップしていく姿」です。

写真は、「シナプス」著者の大木亜希子さん(撮影:BOOKウォッチ編集部)

―― 多くの女性に向けたメッセージですね。

大木 30歳前後の女性の周りには、結婚したい相手より、むしろ、結婚を望んでも残念ながら叶わない、しちゃいけない「魅力的でヤバイ」男性も多いのではないかと思うのです。そして、かしこくて頭もよくて、自分のことをちゃんと考えられる女の子ほど、落ちてはいけないところに落ちるケースがある。危ういと感じています。

―― ネタバレになりますが、本作では、主人公の女性、木村さんがあこがれの男性作家の宮原亮さんに会うために、努力を重ねて出版社に入る。そして、担当編集者になって男女の一線も越えていきますね。男性についた柔軟剤の香りを正妻の愛情として感知しつつも、それをも凌駕して肌を合せていくあたりは、ある種の突き抜けた女性の姿が見えました。

大木 木村は、まさに一直線で身を滅ぼしてしまいそうな恋愛をしたわけです。
 そして、それは彼女が無知で、まるで幻の世界の中の「お姫様」なのだとわからせたかった。

写真は、「シナプス」著者の大木亜希子さん(撮影:BOOKウォッチ編集部)

―― 幻の世界のお姫様。なるほど。
 作中で、木村さんは宮原さんと別れ、気持ち的にも振り切ります。しかし、その後に再会してすぐ、その場で、また体を合わせるシーンがあります。

大木 女性の心理として、危うさを書きたかったのです。自分にとって、もう愛情は持っていない、完全に過去の人だと思えていても、会った瞬間に、その人の匂いでやられてしまうこともあるのです。女性にとって、男性の呪縛は恐ろしいのです。

女の子の寂しさと立場の弱さについて

―― 2つめのテーマについてですが、作中で出てくるアイドルの早瀬マリカさんのシーンで、女の子の寂しさと立場の弱さについて書かれていますね。
 「野心に燃えるあまり、彼に肉体と魂を売った」という表現が印象的です。

大木 作品の中では、プロデューサーが、女優としての出演のチャンスをちらつかせて、早瀬マリカというアイドルの女の子に近づいた。27歳の彼女はその時にアイドルとしての限界を感じていた。そういうタイミングで女の子の弱さにつけ込む男性を描きたかった。

―― 作中で、木村さんは週刊誌の記者に転職し、記者として早瀬マリカさんと対峙することになりますね。

大木 記者としての木村は、男に搾取された早瀬を少し優しい目で見ていて、同僚のカメラマン原田から「彼女に(早瀬に)感情移入しすぎだ」と言われます。
 体を搾取され、その1度の行動を週刊誌に押さえられた早瀬は、夢を持っていた芸能界をも引退に追い込まれる。これは、「(女の子は)黄色信号は渡らないで」というメッセージを込めたシーンなのです。

「シナプス」WEB版の表紙(提供:講談社)

男女の一線を越えた先に何が見えたのか

―― 不倫は、小説の世界で「婚外恋愛」として一つの愛の形として描かれることもありますが、大木さんは否定的ですね。

大木 愛のもう一つの形というか、お互いに人として尊敬しあい、心と心で分かり合うぶんには素晴らしいと思いますが、体だけは欲望に負けてはいけないと思います。なぜなら、もしも体を合わせたら、本当に好きになってしまう可能性があると思うので。

写真は、「シナプス」著者の大木亜希子さん(撮影:BOOKウォッチ編集部)

―― 「シナプス」の序盤では、木村さんは原田さんを追いかけ、妻のいる男を自分のものにしようとします。そして、仕事や仲間との触れ合いの中で、男の呪縛に気づき、終盤で宮原さんから卒業しますね。男女の一線を越えた先に表現したかったことは何でしょうか。

大木 木村は、幻の中のお姫様から終盤で覚醒します。
 行くところまでいかないと剥がれない「男の呪縛」を書きたかった。
 また、木村は記者として別の女性と宮原のスキャンダルを目にするわけですが、そこで、垣間見えてくる男の狡さや、天然な残酷さにも触れたかった。
 報われない男女間の一線を越えた先には、男の狡さや、残酷さが見えるのです。


「シナプス」大木亜希子インタビュー、第2回につづく




■プロフィール
大木 亜希子(おおき あきこ)
1989年生まれ。15歳から芸能活動をスタートさせ2005年にドラマ「野ブタ。をプロデュース」(日本テレビ系)で女優デビュー。2010年、20歳でアイドルに転身しタレント活動と並行してライター業も開始。15年からは会社員として執筆業務を担当し、18年にライターとして独立。著書に『アイドル、やめました。AKB48のセカンドキャリア』(宝島社)、『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人のおっさんと住む選択をした』(祥伝社)がある。


   

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