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「落語は国境も言葉も越えられる」 ~カナダ出身の落語家・桂三輝に聞く~(第3回)

 カナダ出身の落語家・桂三輝(サンシャイン)さんは、史上初となる英語ネイティブのプロ噺家。「伝統をリスペクトし、受け継ぐことを決めた外国人」としてACジャパンのCMに出演し、注目されている。

 前回の記事「『落語は私のために作られたんじゃないか!』 ~カナダ出身の落語家・桂三輝に聞く~(第2回)」では、桂三輝さんが落語に惚れ込んだ理由、英語学習のアドバイスなどを聞いた。第3回は、桂三輝さんが思う万国共通の落語の笑い、自身の体験をもとにした言語習得のコツなどを聞く。

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写真は、カナダ出身の落語家・桂三輝さん。

落語は万国共通

―― 日本の大学院で落語を研究したそうですが、授業の日本語は難易度が高いですよね。日本語がとてもお上手ですが、どうやって習得したんですか。

三輝 大学院以上に、修行が言葉に厳しかったです。師匠がすごく敬語に厳しかったから。「ちゃんとしゃべれるようになるまで黙っとけ」って言われて。半年ぐらい、ほぼ何も言わなかったですね。

 修行中は寝ている時間以外は朝から晩まで、師匠や兄弟子、弟弟子の側にいます。周りの人たちの丁寧さや言葉遣いをマネしていたら、だんだんできるようになってきました。「これ面白いな」と思ったら覚える。このステップバイステップのプロセスが、いい学び方だと思います。

―― 落語の海外公演で、日本と海外の笑いのツボが違うと感じたことはありますか。

三輝 笑いのツボの違いは、もちろんいろいろあります。ただ、落語は万国共通。たとえば長屋の形がわからなくても、家の壁が薄いから隣の夫婦喧嘩が聴こえるっていうのは、世界中誰でもわかる面白味じゃないですか。

 落語の綺麗なところは、人間の基本やハートで笑うところ。人間関係や気持ちのすれ違いは万国共通だから、誰でも笑える。ニューヨーカーは日本人とまったく同じところで、同じリズムで、同じように笑います。だから私は海外向けに変えたりせず、トラディショナルのちゃんとした落語をします。

 現代の日本と数百年前の日本は全然違うのに、日本人はまだ落語のユーモアに笑っている。落語は時代を超えているから、国境も言葉も越えられるんだと思います。

修行は本気の印

―― 昨年ブロードウェイでのロングラン公演がスタートしましたが、現地の反応はどうでしたか。

三輝 おかげさまでニューヨーク・タイムズ、ロイター通信など多くのメディアに取り上げられました。「三輝は早口過ぎる」ってダメ出しもあったけど、「落語はすごく面白い」「新鮮」「ぜひみなさん見てください」などと書かれていました。

 あと、アメリカ人は修行に面白味を感じるんです。この時代にマスターの家の近くに住んで、毎日掃除洗濯カバン持ちして、怒られて。これがニューヨーカーにとって面白くて仕方ない。「コメディアン、ストーリーテラーになるために、そこまでやるの?」って。

 でも、それは本気の印でもある。三輝は日本に行って、落語を学んで、アメリカに持ってきた。そこまで本気でやったからホンモノの職人になれた、っていう印象を持ってもらえるんです。「厳しい修行をしてきたんだから、絶対一度は見るべきだと思った」っていうお客様もいらっしゃるんですよ。面白がるけど、すごくリスペクトしています。日本の伝統芸能に修行制度があることは、すごくいい印象を残しますね。

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写真は、BOOKウォッチ編集部のリモートインタビューに応える桂三輝さん。

笑い合えたら、世界が絶対よくなる

―― 中国語落語にも挑戦されているとか。

三輝 中国語は難しいです。私は中国語の先生から教わるんじゃなく、クラウドファンディングと同じ考え方でクラウドラーニングしています。Googleで翻訳して、正しい発音かどうかわからないけど、とりあえずインターネットにアップする。それを見た中国の方が、コメントですごく親切に直してくれるんです。それで私はもっといい台本を作って、ちゃんとした発音を覚えて、またアップする。世界中の中国人が、私の先生になってくれています。

―― 日本人の感覚だと「間違っていたら恥ずかしい」と、喋れなくなりそうです。

三輝 笑ってもらえるのが一番だから、私は全然気にしないけど(笑)恥ずかしいと思って喋れないのは非常にもったいないと思います。もし笑われたとしても、全然恥ずかしくない。コミュニケーションさえとれたら大丈夫だし、うまくなる。お互いにもっと笑い合えたら、世界が絶対よくなると思うから。

最初だけギュッと我慢して

―― これから英語を物にしたいと思っている読者に応援メッセージをお願いします。

三輝 どの言語も学び始めると、最初の山が大変。でも、覚えるのが大変なのは最初だけ。だんだん喋れるようになってくると、びっくりするほどいつの間にか一気に喋れるようになる。だから最初はちょっと我慢が必要。でも思っているほど難しくないから。ステップバイステップが必要だと思います。

 初めて外国人と会話できたとか、初めてジョークがわかったとか。そういう「おお!」っていう進んだ印が出てくると、これ以上嬉しいことはありません。基本的に人間は、コミュニケーションをとりたいんだと思います。英語を身につけることができたら、いいことがいっぱいあります。最初はちょっとギュッとしてがんばることも必要だけど、それはずっとじゃないから。


―― 異国の伝統芸能を学び、磨き、世界を舞台に発信している桂三輝さん。エネルギーに満ち溢れていた。最後に話してくれた言語を学ぶプロセスは、日本語を駆使する三輝さんの言葉だけに説得力がある。英語は学校の授業で数年間学んだけど、結局何も身についていない......。勉強したいけど、英語の学習教材はありすぎて何がいいのかわからない......。そうやって迷っている人は、三輝さんの「英語落語」を聴いて、まずは英語を楽しむところから始めることをおすすめしたい。

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写真は、本書『桂三輝の英語落語』(アルク)の表紙。

■桂三輝さんプロフィール

 能と歌舞伎に興味を抱き、1999 年に来日。2003年からアコーディオン漫談や英語落語の活動を始める。07 年、大阪芸術大学大学院芸術研究科に入学し、落語を研究。08 年、桂三枝(現・六代桂文枝)に弟子入りし、桂三輝と命名される。13 年、在日本カナダ商工会議所文化大使に就任し、北米ツアーを開催。14年からワールド・ツアーを開始。15 年、日本スロヴェニア親善大使に就任。19 年、ニューヨークの歴史あるオフブロードウェイにある劇場、ニュー・ワールド・ステージで初となる落語のロングラン公演を開始。これまで五大陸15カ国で公演し、日本の伝統文化を世界に発信している。

<この連載を読む ~カナダ出身の落語家・桂三輝に聞く~>
 ステイホーム! 「英語落語」で自分磨き (第1回)
「落語は私のために作られたんじゃないか!」 (第2回)
「落語は国境も言葉も越えられる」 (第3回)


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