障害のある方などと一緒に、幅広い活動を行っている東ちづるさんへのインタビュー。
第1回「支援ではなく、「まぜこぜの社会」を目指したい」は、東さんがこの活動を始めたきっかけやご自身が理事長を務める「一般社団法人 Get in touch(ゲット・イン・タッチ。以下、Get in touch)」の活動について聞いた。
今回は、引き続き「Get in touch」の活動の一つ、舞台について、そして、同性婚を取り巻く現状と課題などについて語っていただいた。
―― 「Get in touch」は、舞台の公演もされていますよね?
東 はい。車椅子ダンサーや義足のダンサー、日本で一番小さい手品師、全盲の落語家やシンガーソングライター、寝たきり芸人や小人プロレス、ドラァグクイーン、自閉症ラッパーなど、多様な特性のある表現者たちで「平成まぜこぜ一座 『月夜のからくりハウス」」を2019年に公演しました。一年かけて準備をし、出演するメンバーは、リハーサルからワクワクしていました。見てくださった方にも大好評でした。意義深い舞台だったと思っています。
一般的には、障害者の活動は「前向き」とか、「希望」とか、「夢を語る」ことが求められることが多いようです。どこからともなく、福祉のにおいがして、頑張っている姿を評価しようとする空気があります。
「Get in touch」は、そこに違和感をもって、希望や夢だけでなく、その裏側も混ぜて表現しようと思ったのです。その想いは、障害のあるメンバーみんなが喜んで受け入れてくれました。
あるメンバーは次のように語っていました。
「障害のあるこの体が、いつもこうなのだから、それを明るく乗り越えて、希望を持ってって言われてもさ。これが私の普通なんだよね」
―― シンプルに、みんなで舞台を作り上げる。ということなのですね。
東 一般的な舞台と同じように、これまでの自分の表現をうち破ることを求めたりもします。当然、演者には負荷がかかります。
障害のある方は、「守られる」ことが多いので、負荷がかかることに慣れていない面もあります。でも、出演する以上は、お客様の前に立つ演者ですからね。
こういう動きはやったことがない。
こんなダンスは踊ったことがない。
こういう歌は歌ったことがない。
そういう意見があれば、必要なら対話をします。演者もスタッフも、負荷のかかることは当然にあります。どんな作品でも、クリエイトするってそういうことですよね。
―― みんな、演者としてまぜこぜで、当たり前のオーダーがあるという話ですね。
東 そうです。舞台を作るうえで必要なオーダーですね。
嬉しかったのは、このオーダーによって、個人個人が新しいトビラを開けていたようにも思います。新しい表現にトライするきっかけだったり、人脈作りだったりしたようです。
―― 東さん、最近、和服でチーママされているとか!
東 「スナック★げっと」というGet in touchのYouTubeチャンネルの企画のひとつでチーママをやっています。
―― どんなスナックなのでしょうか?
東 マスター役は、日本で一番小さい役者で手品師のマメ山田さんです。有名・無名に関わらず、マイノリティ当事者や社会活動をされている方の取り組みなどを紹介するトーク番組です。
特に、さまざまな素晴らしい活動をされている方はたくさんいらっしゃいますが、みなさん奥ゆかしくて、発表する機会もあまりない。たくさんの人に知ってほしいですし、私も、お話しを伺うのがおもしろくて仕方ないです。
―― 今までのゲストはどんな方ですか?
東 有名著名な方ではメダリストの有森裕子さん、元サッカー日本代表の北澤豪さん、ドラマーの梶原徹也さん(元THE BLUE HEARTS/ブルーハーツ)、俳優の高知東生さんなどです。
有森裕子さんはスペシャルオリンピックス日本の理事長、北澤豪さんは日本障がい者サッカー連盟会長。梶原徹也さんは障害のあるメンバーまぜこぜのロックバンド「サルサガムテープ」のドラマーとして活動する一方で、様々な人にリズムワークショップの活動をされています。
―― 「スナック★げっと」では、それぞれの活動について語っていただいているのですね?
東 活動だけでなく、TVなどではなかなか話せないざっくばらんな話題も含めてとても楽しくトークをしています。
―― 「Get in touch」は、同性婚、パートナーシップ制度についても、情報の発信に取り組んでいらっしゃいますが。
東 パートナーシップ制度は、広まってきています。婚姻届けを出せない同性のパートナーも、病院の集中治療室立ち合いでも家族として認められるなど、進捗を見せていますが、まだまだ課題もあります。
今は、都道府県や市区町村レベルでの取り組みなので、国の人権を尊重する取り組みとして同性婚を認めていくべきだと思います。
パートナーシップ条例がある地域ではよいのですが、他の地域に出れば効力はなくなります。それに、相続などの点でも、配偶者としては扱われないという課題があります。当事者にとっては、その課題のひとつひとつこそが、具体的な不安なのです。
一方で、同性婚に反対する方もいます。反対意見があっていいと思います。考え方は自由ですから。
しかし、同性婚を認めたとしても、反対している方には、直接迷惑はかかりません。同性婚を認めている先進国を見ても分かります。
まして、国連が掲げるSDGsを日本でも推進していくのであれば、多様性を認めていくことにデメリットは見つからないように思います。
―― 人と人が恋に落ちる。好きになった相手が同性だったということですよね。同性を好きになるのは、異性を好きになるよりハードルが高いと思います。本当に人間として相手を好きになるという、ピュアな世界な気がします。
東 それは、きっと幻想です。同性カップルでも、ついたり離れたりしますし、愛のないカップルだっているでしょう。
同性カップルがピュアという見方は、一部偏見もあるかもしれません。特別視しないことこそが大切だと思います。
以前、オランダでレズビアンとゲイ、それぞれの結婚式にご招待されたことがあります。男女の結婚式と何ら変わらずに、愛し合うふたりを祝福し、素晴らしい時間でした。特別なことではないのだと改めて知って、私は、同性婚のどこが悪いのだろう?と、素朴な疑問をいだきました。
―― 日本では、同性婚は認められると思いますか?
東 今、裁判でも争われています。ただ、立法については、裁判所ではなく国会の範疇なので、選挙で「考えが素晴らしい」と思う方に投票することで、より良い制度に変えていくことができます。
―― 東さんは、ドイツ平和村の活動を通して、戦争で傷ついた子どもたちを応援していますよね。東さんが書かれた『わたしたちを忘れないで―ドイツ平和村より』(ブックマン社)も、ずっと読まれ続けています。ドイツ平和村はどんな活動をしているのですか?
東 現在、戦争が行われている地域で傷ついた子どもたちを、ドイツに連れてきて治療して母国に帰す活動です。何度も手術をしたり、リハビリを重ねて、日常生活が送れるようになったら母国に帰しています。
―― 東さんのドイツ平和村に対する思いをお聞かせください
東 私は広島県出身ということもありますので、平和教育を受けてきました。そんな中で、今は、戦後だと認識していたのですが、ドイツ平和村の子どもたちと出逢って、今はまだ戦中なのだと思い知りました。
「私たちを忘れないで」と言ったあの子どもたちが、間違いなく、私の目の前にいたのです。
東 ドイツ平和村の子どもたちは、たまたま、戦争の行われている地域に生まれただけで、心も体も傷ついてしまったのです。私たちだって、そこに生まれていたかもしれない。だから、あの子たちはもう一人の私たちなのです。
それで、私に何ができるのか考えました。日本でも受け入れ施設ができないかとも考えましたが、それは制度的に難しくて、であれば、平和村で子どもたちを救うための資金を募ろうと思いました。今も、ドイツ平和村と何をしていくかミーティングを重ねています。
―― 本当に、さまざまな活動をされていますね。
―― 最後に、新型コロナウィルスの影響もあり、「生きづらさ」を感じている方も多いと思います。一言、メッセージをいただけませんか。
東 まずは、自分を責めないでください。新型コロナウィルスは、誰でも、大小の違いはあれど影響を受けていると思います。そして、生きづらさを感じている方はたくさんいると思いますが、「私がダメなんだ」とか「私が今まで頑張ってこなかったのだ」と思わないでください。決してあなたは悪くない。
とにかく、SOSを出してください。「困っています」、「助けて」と、公助と共助を求めてください。もう、自助は十分やっていますから。
そして、何かできる方はどんどんアクションしてください。お節介してくださいね。
東 それから、最後にひとこと。
一人で語る夢は、妄想に過ぎないでしょうが、みんなでつながると社会は変わっていきます。
世論には力があります。社会をアップデートしていきましょう。
―― 貴重なお話、ありがとうございました。
プロフィール
東ちづる(あずま ちづる)
1960年6月5日 生まれ。広島県出身。ホリプロ系列のプロダクション「パオ」所属。一般社団法人Get in touch代表。俳優、タレント。「温泉若おかみの殺人推理」(テレビ朝日系)など、多くのドラマ、CMに出演。『わたしたちを忘れないで―ドイツ平和村より』(ブックマン社)など著書多数。動画配信として「スナック★げっと」や「生きづらさだヨ!全員集合!」、「まみちいの爆笑人生クッキング!!」なども精力的に活動している。
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