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あの人の本棚が見られる!

絶景本棚

 久しぶりに東京駅前の八重洲ブックセンターに行き、驚いた。本書『絶景本棚』と『絶景本棚2』(いずれも本の雑誌社)が山積みになり、しかもよく売れているというのだ。「本の雑誌」の連載をまとめたものだが、フルカラーの紙面からは蔵書家、愛書家の本への愛情、執着、その他もろもろの感情が伝わってくる。

半端ではない蔵書家の書庫

 自分は蔵書家だと思っている人は、すぐ自信を失うだろう。半端ではない蔵書家の書庫、本棚の数々を見て、「まだまだだ」「足元にも及ばない」と。

 まず目に飛び込んでくるのが、社会経済学者・松原隆一郎さんの地下1階、地上2階建てのらせん状の書庫だ。28.7平方メートルの狭小地に1万冊の本と仏壇が収められている。8坪に始まる家づくりの模様は『書庫を建てる』(新潮社)と本になっている。

 続いて作家・京極夏彦さんの天井まで届く造り付けの本棚を埋め尽くす全集類にため息が漏れる。「少年サンデー」「少年マガジン」のバックナンバーも垂涎物だ。書斎のほか別館などに約5万冊を収容。背表紙を壁紙代わりにした美しさと機能性にこだわるそうだ。

 地図と時刻表でいっぱいの地図研究家・今尾恵介さんの本棚もなるほどと思わせるものがある。8畳間を教員の奥さんと共有しながらも、国土地理院の地図を1万枚とそれ以外の地図を2千枚所有するというから凄い。

本棚の本の説明も

 本書は「第1章 百花繚乱篇」「第2章 不撓不屈篇」「第3章 泰然自若篇」「第4章 一球入魂篇」に、合わせて34人の本棚を紹介している。写真のほかに簡単な説明がある。背表紙からどんな本を読んでいるのかわかるが、説明によって、「なるほど」と知ることも多い。

 たとえば、ブックデザイナー・祖父江慎さんの本棚は、右側がすべて『南総里見八犬伝』の本棚で、江戸期の和綴じ木版本から、橋本治の『ハイスクール八犬伝』までの関連書が並ぶ。左には福沢諭吉の『学問のすすめ』があり、金属活字で初めて印刷されたのが『学問のすすめ』第4編なのだという。「廊下の本棚は左右から日本の活字印刷の歴史をたどる道になっている」のだ。

 フリー校正者・辞書研究家の境田稔信さんの書庫にはスチールの本棚が26棹並び、もっぱら辞書・事典類が収められている。『言海』だけでも260冊以上あるというから何が違うのか不思議になる。

 「版が違うものはもちろん、版は一緒だけど表紙の色が違うもの、本文用紙が違うため厚さが違うもの、同じ版なのに奥付の組方が違っていたり肖像写真が違っていたりと、いろんなパターンがあるので集めないといけないらしい」

 2日に1冊のペースで辞書は増えているというから、きりがない。

雑然系と整理系

 本書に取り上げられた人の書斎、本棚を見ると、雑然系と整理系の2つのタイプがあるようだ。雑然系の頭領は、ミステリー・SF研究家の日下三蔵さんだろう。自宅一階部分の4部屋すべてと近くの3LDKマンションのすべてが8万冊の本とCD、DVDで床まで埋まっている。「日本最大級の魔窟にして秘境」と賛辞を送っている。

 本が多いのに、整理が行き届いている人も案外多い。作家・新井素子さんの29畳の書庫は背中合わせになった本棚が十数列等間隔に並び、まるで図書館のようだ。日本人作家と漫画家は50音順というから書店のようでもある。

背表紙を読む楽しみ

 どんな本を読んでいるかで、どんな人かがわかるとよく言われる。だから書斎や仕事場を見せない人も少なくない。こうやって、公開している人は尊敬に値する。

 本書はざっと本棚を見て感心した後、じっくりと一つひとつの背表紙を読む楽しみがある。なるほどと思ったり、へえーと思ったり、人の本棚を見るのは実に楽しい。

 BOOKウォッチでは、4万冊の蔵書の中で息を引き取った草森紳一さんの『随筆 本が崩れる』(中公文庫)、『本で床は抜けるのか』(中公文庫)などを紹介済みだ。

  




  • 書名 絶景本棚
  • 監修・編集・著者名本の雑誌編集部 編
  • 出版社名本の雑誌社
  • 出版年月日2018年2月25日
  • 定価本体2300円+税
  • 判型・ページ数A5判・221ページ
  • ISBN9784860114114

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