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「本で床が抜ける」のは都市伝説ではなかった!

本で床は抜けるのか

 本欄の読者にも愛書家、蔵書家は多いだろう。本の置き場所に頭を悩ませている人もいるに違いない。本書『本で床は抜けるのか』(中公文庫)は、ノンフィクション作家の西牟田靖さんが、自らの体験をもとに本を愛し、本と格闘する人々を訪ね歩いたルポルタージュである。

実際に床が抜けた人を訪ね歩く

 西牟田さんが「本で床が抜けるのでは」と不安を抱いたのは2012年にそれまで仕事場として使っていた中野区のシェアハウス(鉄骨造3階建て)から4畳半のアパート(木造2階建て)に引っ越したときだった。引っ越し業者に「よく思い切りましたね」と言われ、本に埋もれた部屋が気になったのだ。

 そこでSNSにこんな書き込みをして情報を求めた。

 「よく『本の重みで床が抜ける』という話をききますが、実際に体験した人に会ったことがありません。もし実際に経験した人、観たことがある人がいたら連絡ください。ハッシュタグも一応、これでお願いします→ #本で床が抜ける」

 すると、続々と書き込みがあった。「平たく部屋全体に敷けば抜けない」という土木の専門家がいれば、実際に一階の床が抜けたアパートの現場を取材し、「二階だったら床が抜けるかも」と心配する新聞記者もいた。そして西牟田さんも床が抜けてしまった人を探しに行く。

 仮名で取材に応じた軍事評論家は5000~6000冊の蔵書を2DKの木造アパートの二階に置いていた。地震がきっかけで床が抜け、数百万を大家に弁済し、引っ越したという。また、故・井上ひさしさんが「床抜け」を面白がって書いたエッセイがあることを知り、元夫人の西舘好子さんに事情を聞きに行った。多分に脚色されていたが、床が抜けたのは事実だった。

 この後、西牟田さんは、本をスキャンしてデータを保存する「自炊」業者に438冊を送ったり、できるだけ電子書籍を買うなどの自衛策を取ったりするが、思わぬところから「伏兵」が登場し、本書は予期せぬ重いノンフィクションとなる。

故・草森紳一さんの蔵書の行方

 このほかにも『随筆 本が崩れる』(中公文庫)で有名になった草森紳一さんが北海道の実家に建てた書庫や死後東京のマンションに残された約3万冊の蔵書の行方や放送大学教授の松原隆一郎さんが建てた1万冊を収容する鉄筋コンクリート造の円形書庫など、蔵書にまつわる話が盛りだくさんだ。

 たいした数ではないが、仕事柄、評者の生活空間も本に浸食されて久しい。半分ほどは田舎の実家に移したが、本欄の執筆を引き受けてから増殖のスピードは増すばかりだ。本好きにはたまらないエピソードが多く、共感を誘う。そして著者がたどり着いた境遇に深く同情するに違いない。

 なお、底が抜けそうになるのは読者家だけではないことも最後に付け足しておきたい。まず美術関係者。展覧会のカタログを捨てきれずに底が抜ける。音楽関係者。こちらもレコードとCDの山で底が抜ける。さらに映画関係者。かつてはビデオ、今ではDVDで底が抜けそうになる。1万点前後の資料と苦闘している人は、少なくない。

  • 書名 本で床は抜けるのか
  • 監修・編集・著者名西牟田靖 著
  • 出版社名中央公論新社
  • 出版年月日2018年3月25日
  • 定価本体800円+税
  • 判型・ページ数文庫判・294ページ
  • ISBN9784122065604
 

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