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「京大的アホ」が繰り広げる妄想の「四畳半」世界が帰ってきた!

四畳半タイムマシンブルース

 2020年8月、全国的に猛暑が続いている。灼熱地獄と化した真夏の京都で、学生アパートにただ一つ、エアコンが付いた部屋があった。そのリモコンが悪友によって水没。冷房のきかない四畳半で、残りの夏をどうやって過ごせというのか? そんな設定で始まるのが、本書『四畳半タイムマシンブルース』(株式会社KADOKAWA)だ。

『四畳半神話大系』の面々がふたたび

 今にも倒壊しそうな木造三階建ての学生アパート、下鴨幽水荘(しもがもゆうすいそう)が舞台。妖怪のような不気味な風貌の友人・小津、ボンクラ万年学生の樋口先輩、マドンナ的存在の明石さん、そして一度も有意義な夏を過ごしたことのない大学3回生の「私」が登場する。あれ、「デ・ジャヴ」と思ったら、まさに正解。

 森見登美彦さんが2005年に書き下ろしで太田出版から出した『四畳半神話大系』(2008年、角川文庫)でおなじみの面々が帰ってきた。2010年にはテレビアニメで放映されたので、覚えている人も多いだろう。

 本書は、アニメの脚本を担当した劇作家・上田誠さん(劇団ヨーロッパ企画代表)が書き、映画化もされた「サマータイムマシン・ブルース」(2005年)を原案に、森見さんの『四畳半神話大系』を合体させた作品だ。

タイムマシンで前日に跳ぶ

 主要な登場人物は同じだが、世界観は大いに異なる。『四畳半神話大系』は、京都大学とおぼしき大学3回生の男子学生が、1回生時に選んだサークルによって自らの大学生活をいかに変えていったか、その可能性を描く「並行世界」ものだった。しかし、本書はまさに「タイムマシン」ものだ。

 8月12日が第1章、8月11日が第2章、ふたたびの8月12日が第3章という構成。せっかくタイムマシンを手に入れたのに前日に跳ぶのは、水没し故障する前のリモコンを回収しようという、みみっちいが切実な理由からだ。

 「恥も外聞もなく窓とドアを開け放ち、実家から持ってきた骨董的扇風機を動かしても、熱風がぐるぐると巻くばかりで、あまりの暑さに意識が朦朧としてくる。目の前にうずくまっている男は実在するのだろうか? 心の清らかな私だけに見える薄汚い蜃気楼ではないのか?」

 上半身裸で汗まみれの男子大学生がふたり、四畳半で睨み合っているのだから、エアコンをふたたび稼働させたいというのは、生死を賭けた切実な理由には違いない。

 果たして、先遣隊として派遣された3人は無事、「今日」に帰ってくるのか? そして世界は変わらないのか? 不毛な議論が続く。

アニメ化でカルトなファン

 森見さんは直木賞と本屋大賞にダブルノミネートされた『夜行』(小学館、2016年)、『熱帯』(文藝春秋、2018年)と複雑な物語性を帯びた作品で知られるが、デビュー作の『太陽の塔』(2003年、日本ファンタジーノベル大賞)と2作目の『四畳半神話大系』は、ともに京都を舞台に「くされ大学生」が登場する「怪作」で、後者はアニメ化によってカルトなファンを獲得した。

 京都大学に実在するのかどうか分からない奇怪なサークルの人間関係が本書でも濃密に描かれる。主人公らが所属した「京福電鉄研究会」なるサークルは、いわゆる鉄道愛好会ではない。「かつて京都と福井は京福電鉄によって結ばれていた」という仮説に基づいて設立された妄想系鉄道サークルだった。主な活動は存在しない鯖街道線の「廃線跡」を辿り、当時の「遺跡」を発見するというもの。そして内紛が起こり分裂、消滅したという過去があった。「アホな京大生」たちである。

 BOOKウォッチでは、京都大学大学院人間・環境学研究科教授の酒井敏さんが書いた『京大的アホがなぜ必要か』(集英社新書)を以前紹介した。40年以上前に、静岡県の高校から京都大学理学部に入った酒井さんは、いきなり先生に「アホなことせい」と言われて面食らったそうだ。

 本書は、まさに「京大的アホ」が繰り広げる妄想の「四畳半」世界である。中村佑介さんの装画も前作同様のテーストを醸し出している。

  


 


  • 書名 四畳半タイムマシンブルース
  • 監修・編集・著者名森見登美彦 著、上田誠 原案
  • 出版社名株式会社KADOKAWA
  • 出版年月日2020年7月29日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数四六判・225ページ
  • ISBN9784041095638
 

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