少し前に『ざんねんないきもの事典』(高橋書店)という本がベストセラーになった。動物と同じように「ざんねんな人」が職場にもいませんか? 本書『職場のざんねんな人図鑑』(技術評論社)は、認知科学の専門家が特性別に人間を25属に分類した本だ。どのような長所と短所があるのか。自分自身を振り返るのにも役立つだろう。
著者の石川幹人さんは、明治大学大学院情報コミュニケーション研究科教授。著書に『心と認知の情報学~ロボットをつくる・人間を知る』(勁草書房)、『人はなぜだまされるのか~進化心理学が解き明かす「心」の不思議』(講談社ブルーバックス)などがある。
最初に石川さんは、我々はみな「ざんねんな人間」だとしている。遺伝子の指令があるので、頭では分かっていても体が思うようにならないことがあるというのだ。だから、文明の時代に体が適応していない「ざんねんな人間」だと。
本書は人間を25の属に分類し、その生態、生息地、天敵、あるあるな習性、自分がその属だったら、その属とうまくつきあうには、などの項目で解説している。どんな属があるのか。
「アピール属、言い訳属、浮気属、運命属、お金稼ぎ属、怒りんぼ属、おせっかい属、おたく属、共感先行属、議論属、後悔属、ゴシップ属、サイコ属、先延ばし属、嫉妬属、しらけ属、大樹の陰属、ちらかし属、ナルシ属、人みしり属、不安抱え属、変心属、マウント属、見栄はり属、妄想属」
「図鑑」なので、自分も属していると思ったところや職場で気になる人が当てはまると思ったところをランダムに読めばいいだろう。
たとえば、SNSでよく見かける「アピール属」。生態について、こう書いてある。
「自分を人に良く思ってもらうための自己表現に事欠かない。豊富な友人関係、恵まれた容姿・体形、有名人とのコネ、満ち足りた私生活、裕福さを強調するような言動が目立つ。しらけ属との相性が悪く、彼らにスキを見せないように生活している」
彼らはなぜこうした行動を取るのか。人類はずっと小さな集団で暮らしていたので、まわりの人から認められなければ、その集団から排斥されてしまう可能性があった。周囲の承認を得た状態で「安心」したいのだ。
いまは誰の承認がなくても生きていけるのに、いまだに承認欲求が強いのがアピール属だという。
もし、自分がそうだったら、SNSでの発信は「他人に害を及ぼさないような、日常の何げない記録」にとどめておくのがいいという。また、生活がそこそこ成り立っているならば、「承認がなくとも生活は安心」と自分に言い聞かせ、承認を求める行動以外の行動を優先させるべきだ、としている。
アピール属には、ただ「いいね」と反応するのがベストだそうだ。
さまざまな属がなぜ生まれたかの解説を読むと、人類が狩猟生活をしていた頃の名残りであると説明していることが多い。たとえば、「怒りんぼ属」の怒りは、先史時代、集団の掟に従わない人には有効な手段だったが、現在の組織ではルールは明文化されているので、不要だ。「理性にもとづく説得に自信がないとき、手っ取り早く『怒り』が登場する」と説明している。
怒りんぼ属の上司に対して部下から問題を指摘しても、ほとんど改善しない。中小企業でいつまでも改善されなければ、その企業の将来は暗いので、転職を考えましょう、とアドバイスしている。
そのほか、いくつか参考になると思ったことを挙げてみよう。
・おたく属の職場環境を変えるのは、最小限に。ルールの変化に弱いから。 ・共感性が欠如しているサイコ属でも活躍できる職場はある。 ・議論属は会議のメンバーから外し、後で結果について意見だけ聞くという対処もある。
通して読むと、自分が大なり小なり何らかの属の傾向があると思うかもしれない。また、短所と長所は裏腹だ。石川さんは「個人としては『ざんねんな』欠点であっても、組織のほかのメンバーの抑制や活性化という観点から見れば、うまく活かせば利点にもなりえます」と書いている。
多様性のある組織の方が変化には強い。マネジメントに携わる人なら、部下の顔を思い浮かべながら読むと、参考になるだろう。
BOOKウォッチでは、職場のトラブル関連として、『パワハラ防止ガイドブック』(経団連出版)、『公務員のカスハラ対応術』(学陽書房)、『発達障害の人の雇用と合理的配慮がわかる本』(弘文堂)、『職場のあの人、もしかして発達障害?と思ったら』(秀和システム)などを紹介済みだ。
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