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最も注意すべき「食品添加物」は何でしょう?

食品添加物はなぜ嫌われるのか

 かつて「危険な食品」に関する本がベストセラーになったことがあった。最近も週刊誌など類似の特集をしばしば見かける。多くの人にとって身近な話だからだろう。本書『食品添加物はなぜ嫌われるのか』(DOJIN選書)は専門家の立場から、改めて「本当の食の安全」を伝える。「食品情報を『正しく』読み解くリテラシー」という副題が付いている。

間違った情報に翻弄されやすい

 著者の畝山智香子さんは宮城県生まれ。東北大学大学院薬学研究科博士課程前期2年の課程を修了。薬学博士。現在、国立医薬品食品衛生研究所安全情報部長。専門は薬理学、生化学。『「安全な食べもの」ってなんだろう? 放射線と食品のリスクを考える』『ほんとうの「食の安全」を考える――ゼロリスクという幻想』『「健康食品」のことがよくわかる本』などの著書がある。

 勤務する国立医薬品食品衛生研究所は厚労省の機関。医薬品、医療機器、食品、化学物質についての品質、安全性、有効性についての調査・研究をしている。したがって本書は、健康について責任を持つ厚労省サイドの考え方にのっとった本といえるだろう。

 著者は「まえがき」で、「残念ながら食品の安全性の分野においては、大手新聞やテレビ局を筆頭にメディアの発信する情報は間違ったもの、背景説明が不十分なために誤解を招くもののほうが多いというのが現状です」と苦言を呈する。インターネットや書籍などは、さらに惨憺たる状況で、「情報を積極的に集めようとする志の高い人ほど間違った情報に翻弄されやすくなっています」と注意を促す。

 そして「情報」というものが、なかなか単純ではないことも強調する。断片情報が「事実」であっても、それだけでは全体像がわからないというのだ。「本文で取り上げた内容ですら、おそらく一側面にすぎません」と慎重だ。

日本は遅れをとっている

 本書は以下の構成。

 第1章 終わらない食品添加物論争
 第2章 気にすべきはどちらか――減塩と超加工食品
 第3章 オーガニックの罠
 第4章 新しい北欧食に学ぶ
 第5章 国際基準との軋轢
 第6章 食品表示と食品偽装
 第7章 プロバイオティクスの栄枯盛衰
 第8章 食品安全はみんなの仕事――すべての人に適切な情報を

 著者のスタンスは明確だ。「食品添加物は安全性を確認しないと使用が認められないので、安全性についてのデータのない、一般的な食品より安全です」。ただし、「食品添加物だから安全」というのではない。「食品添加物として認められている物質を食品添加物として認められている使用条件で使うなら安全」とクギを刺す。

 そうした中で著者が強調するのは「塩」だ。最も注意すべき「食品添加物」だという。すでに各国で減塩対策が進んでいる。その中で日本は遅れをとっているという。その一因に「和食の推進」があると見ている。和食の最大の欠点は食塩摂取量が多くなることだ。「減塩を推進することは和食の推進には不都合です」。

 お隣の韓国も日本と同じように、ご飯とおかず、という食生活で塩分摂取が多い。しかし、数値目標を設定して減塩に取り組んでいるそうだ。著者は「日本人の健康にとってもっとも害が大きい『食品添加物(WHOの定義による)』は食塩です」と言い切る。

欧州や韓国ではカフェイン表示義務

 カフェインについても言及している。日本では表示義務がない。使い方を間違えると、有害になる。不眠、胃のむかつき、心拍数の増加、頭痛などが報告されている。健康な成人なら一日400ミリグラムまでは大丈夫だろうとされているが、個人差も大きい。

 コーヒーのカフェイン量は100ミリリットル当たり60ミリグラム程度。紅茶は30ミリグラム、煎茶は20ミリグラム程度。欧州や韓国では、商品によってはカフェイン表示が義務付けられている。最近は各国でエナジードリンクが問題になっているそうだ。一本飲んだだけでカフェイン含量が危険なほど高いというわけではないが、飲みやすいので、ついカフェインを摂取しすぎてしまう。

 日本ではお茶のペットボトルなどで「カテキン」が表示されていることがある。著者は、そういう意味のない数字を宣伝のために表示するスペースがあるなら、カフェインを表示したほうがはるかに役立つ、としている。

 本書ではこのほか、ベビーフードで考える食品添加物の安全性、オーガニック卵汚染事件、EUへの鰹節の輸出問題、オリーブオイルやハチミツの偽装問題、欧州では認められない健康強調表示なども取り上げられている。

 ちょっと気になったのは1970年代中ごろの食品添加物騒動に関する部分。「当時の新聞社には科学記事専門記者などは存在せず・・・」という関係者の回顧談を引用しているが、調べてみたら、戦後間もないころから科学記者がおり、1957年に朝日新聞と毎日新聞、59年に共同通信に科学部ができている。読売新聞は56年に科学報道本部を立ち上げ、68年に科学部に組織替えしている。



 


  • 書名 食品添加物はなぜ嫌われるのか
  • サブタイトル食品情報を「正しく」読み解くリテラシー
  • 監修・編集・著者名畝山智香子 著
  • 出版社名化学同人
  • 出版年月日2020年6月 1日
  • 定価本体1900円+税
  • 判型・ページ数B6判・256ページ
  • ISBN9784759816839

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