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東京五輪開催決定前から東京のホームレスは公園から消えていた

ホームレス消滅

 最近、路上や公園でホームレスを見かけることは少なくなった。それでも2019年1月時点で全国には4555人のホームレスがいるという。本書『ホームレス消滅』(幻冬舎新書)は、存在するけれども見えなくなったホームレスの実態に迫ったルポルタージュだ。

ホームレス取材歴20年超えるライター

 著者の村田らむさんは、1972年生まれのライター兼イラストレーター、漫画家。ホームレス取材歴は20年を超え、著書に『ホームレス・スーパー列伝』(ロフトブックス)、『禁断の現場に行ってきた!!』(鹿砦社)などがある。

 2021年開催予定の東京オリンピック、2025年開催予定の大阪万博を前に、「ホームレスは排除されるのか」というメディアからの質問を受けるようになったという。本書はこの2大イベントとホームレスの関係について答えるとともに、「ホームレスはいったいどんな人たちで、どんな生活を送っているのか」という一般的な疑問に答えるものになっている。

ホームレスは「西高東低」

 冒頭の全国で4555人のホームレスがいるという数字は、厚生労働省の「ホームレスの実態に関する全国調査」(生活実態調査)によるものだ。2003年から行われ、この時は大阪府7757人、東京都6361人。2016年では大阪府1497人、東京都1319人と、ホームレスは「西高東低」であるものの減少傾向にあることがわかる。

 本書は適宜、こうした統計を使いながら、村田さんが足で稼いだ取材が元になっている。

ホームレスの平均月収は約3万8000円

 「第1章 日本のホームレス」は、彼らの生活を収入、服装、居住形態、病気などのトピックスから紹介している。ホームレスの半数以上は働いており、その7割はアルミ缶回収など廃品回収をしている。

 アルミ缶の買い取り価格は1キロ90~130円で、2000缶を集めても一日3000円が限度。村田さんが実際やってみたが、うまく回収できず、500円にしかならなかったという。かなりの重労働だ。

 身なりが汚い印象があるが、圧倒的多数は普通の身なりで臭いもきつくないという。これは廃品回収以外にも、建設日雇い、転売業者が転売する品物やチケットを買うための「並び」、街中での看板持ちといった仕事を請け負うため、ある程度清潔にしておかなければ、仕事から排除されるからだ。ホームレスの平均月収は約3万8000円だ。(「生活実態調査」)

ドヤ街が第二の故郷

 ホームレスがどうして生まれたのかを探り、ホームレスの第二の故郷ともいえるドヤ街へと進む構成になっている。「第2章 ルポ・日本のドヤ街」では、東京・山谷などのドヤ街は、1990年代のバブル崩壊とともに日雇い労働省の仕事が減り、ホームレスが増えていったことにふれている。今、山谷は元ホームレスの生活保護の街、さらにインバウンド客向けの安宿の街と変化している。

 「第3章 日本最大のホームレスタウン 西成消滅の現実度」が、最大の読みどころだ。かつての無法地帯ぶりとともに、日雇い労働者とホームレスのための施設、あいりん総合センターが2019年に閉鎖され(2025年に新施設が完成)、万博を前に"浄化"されようとしていることを指摘している。

3000円アパート事業で減った公園のホームレス

 「第4章 東京五輪そしてホームレスは見えなくなった」を読むと、上野公園、代々木公園、渋谷の宮下公園など、東京の公園は、東京五輪の開催が決まる前に、ほぼ"浄化"されていたことがわかる。東京都が2004年度から2009年度に行った「ホームレス地域生活移行支援事業」(通称・3000円アパート事業)が大きく影響している。

 特定の公園・地域に住むホームレスに、借り上げた住居を2年間、月3000円の家賃で提供し、自立した生活へ向けた支援を行った。計1945人のホームレスが公園から消えてアパートに入居した。事業終了時には8割の人が一般の賃貸住宅に移った。路上に戻った人は予想以上に少なかった。

最後の行き場となった河川敷

 では、公園から消えたホームレスがどこに行ったのか? それを明らかにしたのが「第5章 ホームレスが逃げ込む終着点」である。行き先は河川敷。それも国が管理する河川の河川敷だ。東京では荒川、多摩川、江戸川。大阪では淀川だ。隅田川は東京都が管理を強化したため、ホームレスが大幅に減少した。

 雨風がしのげる橋の下、川の近くの葦の中にホームレス村が形成されている。「健康で文化的な最低限度の生活」をしている彼らの生の声が多数紹介されている。

 村田さんの立場は、あくまでホームレスの話を聞かせてもらうだけということだ。彼らが望まない限り、支援活動は行わない。だからこそ、彼らの貴重な本音が収められている。

 「ホームレスでいることは、よいことなのか、悪いことなのか、はっきりはいえない。そして、はっきりいうべきだとも思わない。ただなんとなく、徹底的にホームレスを排除する国・社会は、あまり幸せではないような気がするというのが僕の見解だ」
  


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  • 書名 ホームレス消滅
  • 監修・編集・著者名村田らむ 著
  • 出版社名幻冬舎
  • 出版年月日2020年5月30日
  • 定価本体900円+税
  • 判型・ページ数新書判・290ページ
  • ISBN9784344985933
 

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