タイトルや表紙に「マリファナ」、「大麻」という言葉が出ているので、手に取るのをずっと敬遠していた本書『マリファナ青春治療』(KKベストセラーズ)。読んでみると、大麻の医療効果について書かれた、すごく真面目な本だった。
著者の工藤悠平さんは、1986年生まれ。青森県むつ市出身。早稲田大学大学院会計研究科修了後、事業再生の経営コンサルタント会社を辞職して、公認会計士試験の論文試験を1週間後に控えたときに、激痛に襲われ、頸椎ヘルニアと診断される。医師から、いわゆる「麻薬」を処方するが、それでもいいか? と尋ねられ、同意した。服用したが、痛みは去らなかった。
ほかの病院にも行き、別の薬も試したが、効果はなかった。大麻の成分が痛みに効くかもしれないことを知った工藤さんは退院後、アメリカへ飛ぶ。
それから、アメリカやカナダと日本を往来した工藤さんが、身の回りに起きた実際の生活や体験を中心に綴ったエッセイが本書である。以下の疑問に答える内容になっている。
・大麻を使用するとどうなるのか ・日常的に使用した場合、生活にどのような影響が出るのか ・常習的に使用していた人が突然やめるとどうなるのか ・外国の人はどのように大麻と向き合っているのか ・実際に病を緩和するのが本当に可能なのか
ラスベガスに行き、大麻販売店で「医療目的」と告げ、タバコをひと回り大きくしたような大麻製品を入手する。ホテルはタバコも大麻も禁止されていたので、路上の喫煙所で大麻に火をつけた。
「ホテルに戻り、そのままベッドに横になった。落ち着いた頃には肩の痛みが引いていくのを感じた。痛みで凝り固まり盛り上がっていた右肩がみるみる戻っていくのを感じた」 「何時間寝たのかも覚えていない」 「翌朝、自然に目が覚めた」 「昨日まで数カ月間悩まされていた激痛がそこにはなかった」
痛みを感じなくなり、帰国。そして再度の渡米、そして帰国。そうするうちに思いついたのが、カナダ・バンクーバーへの「移住」だった。しかし、まだ大麻に対しては懐疑的だった。ここまでが第1章。
第2章はカナダでホームステイして語学学校に通う日々が描かれる。部屋では吸っていなかったが、煙の臭いがすると、ホームステイ先を追い出される。寮に移り、スイス人や韓国人の留学生と交流を重ねながら、英語の勉強よりも大麻の歴史の探求にどんどんハマっていく。このあたりの記述が「青春」治療のタイトル通り、若々しく楽しい。
420という大麻のイベントでは、4月20日の午後4時20分に会場に集まった数万人が一斉に大麻タバコに火をつけた。カナダでは嗜好目的の大麻の解禁を控えていたので、祭りは警察の監視下、喫煙が黙認された。工藤さんも祭りの一員となった。
麻薬についてほとんど知識のなかった工藤さんだが、ケシを原料としたモルヒネなどオピオイド系の麻薬や薬、大麻との違い。また大麻の医療効果についての知識も深くなっていた。
一時帰国した工藤さんは、「医療大麻」という言葉を有名にした高樹沙耶さんにも面会する。
「『医療大麻』という言葉を日本に広めた彼女の功績は、いつか報いられるべきだと僕は思う」
再びカナダに戻り、大麻を育て始め、2カ月後、仲間との大麻パーティーの場面で第3章は終わる。
第4章は大麻をめぐる各国の情勢について解説している。「大麻を使用するための留学」と告げていたため、多くの友人を失ったが、2018年10月、カナダでの大麻合法化のニュースで、失ったと思った友人たちから再び連絡が来た。アメリカ、韓国、メキシコなど各国で進む医療大麻についての議論を紹介している。
工藤さんは、現在、カナダに移住し、実業家、投資家として独立している。本書を読みながら、どうやって生活しているのか、心配になったが、杞憂だったようだ。
本書は医療大麻の使用について問題提起をしており、一貫してオピオイド系の薬物は怖い、という論調で書かれている。痛みを伴った工藤さんの体験がそうさせるのだろう。
また、「大麻はエントリードラッグになる」という日本の取締当局の論法についても、アメリカでは決着がついていると反論している。
読み終わり、本書で少しふれているアルコールの問題について考えた。モルヒネが規制される前のアメリカでは、最も危険なドラッグはアルコールであるといわれていた時代もあるそうだ。また日本で普通に行われているようなお酒の飲み方は、「恥ずべき行為」であると海外では認識されているとも。
酒に泥酔するのは「ドラッグ中毒」と訪日外国人旅行者は思っている。見た目ばかりではない。アルコール中毒の害毒は大麻以上に大きいかもしれない。
BOOKウォッチでは、日本での麻薬取締について、『マトリ――厚労省麻薬取締官』 (新潮新書) 、『麻取や、ガサじゃ!――麻薬Gメン最前線の記録』(清流出版)などを紹介済みだ。
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