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インダス文明が「感染症」で消滅した可能性は?

その話、諸説あります。

 世の中に通説や定説が浸透するには時間がかかる。いまだに何が本当なのか、よくわからないことも少なくない。本書『その話、諸説あります。』(日経ナショナルジオグラフィック社)はそんな「疑問」「謎」の中から、世間で関心を持たれているものを選んで、「複数見解」を伝えたものだ。「フェイクニュース」が広がりやすい時代だからこそ、時機を得たものといえるかもしれない。

正解は書かれていない

 本書は、「最初にお断りしておくと、この本には正解は書かれていない」という注意書きから始まる。「教科書に載る前の世界にようこそ!」という見出し。つまり、教科書に掲載されているのは、「答え」が「事実」として幅広く認定されたもの。それは世の中の過去の出来事や、現在の現象、未来に起きうる様々な事柄の中のごく一部に過ぎない。それ以外は、いまだに答えがわからない問いと、その問いに答えようとする無数の「説」だらけ。そうした状況を「この世は諸説でできている」と総括し、主なものについて紹介しようというのが本書の趣旨だ。

 アインシュタインの「重力波」説は100年後にようやく証明され、「説」から「事実」に昇格した。いったん「事実」とされていたことが「実は間違っていた」こともある。本書では、「恐竜のウロコ」について語っている。恐竜は爬虫類の一種と考えられ、トカゲや蛇と同じような体表を持つとみなされていた。ところが、近年になって古生物学者が、実は恐竜は鳥類の子孫ではないかという説を唱え、それを裏付ける化石を中国の学者が発見した。ウロコではなく羽毛が生えていたというのだ。

 本書は「世界史」「日本史」「科学」「動物」「宇宙」の5ジャンルからテーマを集め、文系でも理系でも気軽に読める内容。目次は以下の通り。

〇1章 世界史
モナリザのモデルは誰?/ケネディ暗殺の黒幕は?/インダス文明滅亡の原因は?/切り裂きジャックの犯人は?/「ハーメルンの笛吹き男」のモデルは?
〇2章 日本史
邪馬台国はどこにあった?/鎌倉幕府の成立はいつ?/明智光秀はなぜ本能寺の変を起こした?/徳川埋蔵金はどこにある?/日露戦争の勝利、真の貢献者は?
〇3章 科学
人魂の正体は?/近視の原因は?/人類が鉄を発見したきっかけは?/「つわり」はなぜ起こる?/ヒトの寿命は何歳まで延びる?
〇4章 生き物
ヒトが二足歩行を始めたきっかけは?/渡り鳥が目的地に行ける理由は?/ゾウが土を食べる理由は?/モズはなぜ「はやにえ」をするのか?
〇5章 宇宙
地球外生命体は存在する?/宇宙で最初に誕生したのはどんな星?/巨大ブラックホールはどのように生まれた?/金やウランなどの重元素はどこでつくられた?/宇宙の未来はどうなる?

「古代核戦争説」も登場

 全体は歴史系と科学系に分かれている。目次を見てもわかるように、テーマの選び方やその内容にはばらつきがあり、雑然としている。執筆陣は予備校講師から国立天文台准教授まで多彩だ。サービス精神も垣間見られ、とてつもない説も同居させている。

 たとえば、「インダス文明滅亡の原因は?」という項目。紀元前2600年から同1900年ごろ、インド北部に栄えたインダス文明はモヘンジョ=ダロなどの有名な遺跡を残したが、忽然とその姿を消した。理由は何か。

 ここでは「アーリア人の侵入説」「環境破壊説」「気候変動説」「河道変化説」など、それなりに学術的にも検討可能な複数説が挙げられ、いずれも不十分であることが記されている。その中で最後に登場するのは、なんと「古代核戦争説」。これは1980年代に流行した新説なのだという。「おそらくオカルト好きの誰かが捏造した話に、人々が飛びついて本気にしたのだろう」とあしらっている。

 本書の枠組みや、「ナショナルジオグラフィック」という出版社のイメージには、ややなじまない説と感じたが、意外なことに同社は『オカルト伝説――人を魅了する世界の不思議な話』なども刊行している。

 ところで、今日の新型コロナウイルスも踏まえれば、インダス文明の消滅に「感染症説」の可能性もあったのではないかと評者は思った。『世界史を変えた13の病』(原書房)によれば、ギリシャ文明やローマ帝国の崩壊には疫病の大流行が関係していることがわかっている。『感染症とたたかった科学者たち』(岩崎書店)によれば、現在のメキシコに栄えていたアステカ王国は、スペイン経由の天然痘の大流行で、数百万の人口が半減した。インカ帝国の皇帝や後継者は、スペイン人のピサロがわずか168人の兵力でペルーに上陸した時、すでに天然痘で死んでいて帝国は内乱状態だったという。古来、短期間で大量の人々を死に至らせたのは感染症だ。


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写真は、『その話、諸説あります。』(日経ナショナルジオグラフィック社)

未来の教科書には載るかもしれない

 BOOKウォッチでは以前、『ここが変わる! 日本の考古学』(吉川弘文館)を紹介した。同書の場合は、国立歴史民俗博物館の研究者13人が分担執筆。「これまでの常識」をベースにしつつ、研究者による「最新の研究成果」が上書きされている。したがって「今の小中学校の教科書には載っていないことや異なる意見」も掲載されている。なぜなら、教科書には学界の多くの研究者が同意している見解しか載らないから。しかし未来の教科書には載るかもしれない。あるいは結果的に載らなくてもそれが間違いではなく、今の歴博の研究者が考えている見解だ、と書いてあった。

 国立歴史民俗博物館は同書の内容に沿って、総合展示第1展示室「先史・古代」をリニューアル。1983年の開館以来はじめての大幅な展示替えだという。

 本書はそうした学術研究の最新成果を伝えるものではない。むしろ「俗説」にも丁寧に目配りした「読み物」といえる。

 BOOKウォッチではナショナルジオグラフィック社の出版物では『世界の少数民族』、『消滅遺産』、『科学の誤解大全』なども取り上げている。


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写真は、『その話、諸説あります。』(日経ナショナルジオグラフィック社)

 
  • 書名 その話、諸説あります。
  • 監修・編集・著者名ナショナルジオグラフィック 編
  • 出版社名日経ナショナルジオグラフィック社
  • 出版年月日2020年2月25日
  • 定価本体1750円+税
  • 判型・ページ数A5判・176ページ
  • ISBN9784863134744

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