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バーミヤン遺跡の大仏はよみがえるか

消滅遺産

 文化遺産の本は多いが、本書『消滅遺産』(日経ナショナルジオグラフィック社)は珍本だ。すでに消えた歴史的文化財を対象としている。サブタイトルにあるように、「もう見られない世界の偉大な建造物」のガイドブックだ。

 表紙は、あの有名なアフガニスタン・バーミヤン渓谷にあった大仏。高さ55メートル。世界で最も背が高い立像の在りし日の姿だ。タリバンによって2001年に爆破されてしまった。色即是空。形あるものは形がないという謎めいた教えが仏教にあるが、残念なことである。

戦争、都市計画、再開発、地震などで消える

 本書には29件の文化遺産が登場する。全体は4部構成。第1部は「永遠に失われた偉大な建築」として古代神殿さながらの美しさを誇ったペンシルベニア駅旧駅舎。香港の密集スラム九龍城。ダムの底に眠るトルコのゼウグマ遺跡。そしてバーミヤンの大仏など10件。第2部の「一部は失われ、一部は残った」ものとして、帝国ホテルのライト館など4件、第3部「危機に瀕する遺産」として、砂漠にそびえる伝説の黄金郷トングブトゥ、シルクロードの隊商都市パルミラ遺跡など5件、第4部「再び立ち上がる日」として、修復・復元への努力が続く10件が紹介されている。いずれも昔日の立派だったころの写真が掲載されているので、理解が進む。

 消滅の理由はいろいろだ。戦争や局地的な紛争、都市計画による再開発、地震など自然災害や火災などの人災。完全崩壊もあれば、一部が残ったものもある。

 再建するにはいくつかの条件が必要だ。まず、現地の政情が安定していなければ調査も工事もできない。あるいは昔と同じ素材が調達できるか。経費も莫大にかかるし、元の設計図や写真が残されていないと、着手もできない。

日本が協力、アンコールワット再建

 巻末で、著者の東京文化財研究所・文化遺産国際協力センターの安倍雅史さんが大変さをまとめている。安倍さんは2010年に、破壊されたバーミヤン遺跡の修復事業のために現地入りした経験がある。まず渡航前の安全教育で、地雷の見分け方、銃撃戦が起きたときの対処方法などをみっちり学んだ。現地での移動は、カブール市内でも防弾車、宿舎は武装警官によって守られていた。研究者が現地に行くのも命懸けだ。

 バーミヤン大仏の場合は、非常にもろい砂岩をくりぬいて作られているため、爆破によって大部分が粉々になっている。オリジナルな部材が失われている中で技術的に再建が可能なのか、議論が続いているという。

 日本が復元に協力してきた実例も報告されている。エジプトのヌビア遺跡の保存では、ツタンカーメン展を主催した朝日新聞社が収益金全額をユネスコに寄付した。カンボジアのアンコール遺跡の保存修復では長年、日本が協力しており、荒れ果てていた遺跡は一大観光地としてよみがえった。いまやカンボジア経済を支えている。

 日本で失われた文化遺産としては、本書には載っていないが、戦後間もないころの法隆寺の焼失壁画が有名だ。その模写再現には、若いころの平山郁夫氏ら多数の画家が参画した。修復についても長年、努力が続けられていることを思いだした。

  • 書名 消滅遺産
  • サブタイトルもう見られない世界の偉大な建造物
  • 監修・編集・著者名安倍雅史 (監修)、ナショナル ジオグラフィック (編集)
  • 出版社名日経ナショナルジオグラフィック社
  • 出版年月日2018年2月26日
  • 定価本体2400円+税
  • 判型・ページ数B5判・160ページ
  • ISBN9784863134126
 

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