お坊さんの世界で「東大」といえば、京都の龍谷大――そんな話を聞いたことがある。関西の有名寺のエライお坊さんには龍谷大出身者が多いからだ。
しかしながら最近は、本当の東大出も目立つ。メディアにも引っ張りだこ。僧侶の世界でも「東大ブランド」が人気のようだ。
すぐに思いつくのは、小池龍之介さん(1978~)。ウェブサイト「家出空間」や、寺院とカフェを融合させた「iede café」を立ち上げ、「自分」から自由になる沈黙入門』など多数の著書がある。『坊主失格』では波乱の半生も明かすなど異色の僧侶だ。
松本紹圭さん(1979~)も活躍している。超宗派仏教徒のウェブサイト「彼岸寺」をつくり、「神谷町オープンテラス」を運営。その一方でMBAも取得し、お寺の経営を指南する「未来の住職塾」も。少子化などで経営難に直面するお寺の悩みにも答える多能ぶりだ。
本書『感じて、ゆるす仏教』(株式会社KADOKAWA)に登場する藤田一照さんは、二人よりも一世代上の1954年生まれ。大学院では発達心理学を専攻していたが、博士課程を中退し禅道場に入山し、翌年得度。国内はもとより、アメリカの大手企業でも坐禅指導もする。オンライン禅コミュニティ「大空山磨せん寺(たいくうざんませんじ)」をつくり、著書に『現代坐禅講義』(佼成出版社)、共著に『アップデートする仏教』(幻冬舎新書)など。翻訳書も多い。
本書は、その藤田さんと、著述・翻訳家の魚川祐司さん(1979~)の対談だ。魚川さんも仏教と縁が深い。東大博士課程満期退学(インド哲学・仏教学専攻)。ミャンマーやタイでテーラワーダ(上座部)仏教の教理と実践を学び、著書に『仏教思想のゼロポイント』(新潮社)、『講義ライブ だから仏教は面白い!』(講談社+α文庫)などがある。
いわば「東大出」の専門家二人による対談だ。藤田さんが10歳の時にふと星空を見上げて、無限の宇宙と砂粒のような自分の関係に驚愕した「星空体験」を振り返れば、魚川さんは5歳で子ども向けの宇宙に関する本を読み、太陽が数十億年後に赤色巨星になって地球が消滅すると知って真剣に悩んだと語る。
このあたりを読むだけで、敷居が高いように感じる人がいるかもしれない。もちろん、部分的に専門的、難解な領域に入るところもあるが、スッと読めるところを中心に拾い読みするだけでも有益だ。
がむしゃらに頑張って上を目指してきた東大生が、なぜ「感じて、ゆるす」という心境に至ったか。そのあたりは、多くの読者にとって興味深いだろう。後輩の悩める東大生らにとっても、おそらく参考になるはずだ。
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