本書『「勘違い」を科学的に使えば武器になる』(秀和システム)。タイトルを見て、人をひっかけるのを勧める内容かと思ったら、そうではなかった。人はコミュニケーションするとき、必ず「勘違い」してしまう、なぜなら誰もが「バイアス」=錯覚、ゆがみを通して物事を見ているからだ。バイアスを知ることでスムーズなコミュニケーションが取れると説く有益な本である。
著者の堀田秀吾氏は明治大学教授。「法言語学」が専門で、事件の捜査や裁判で使うことを目的として、ことばやコミュニケーションに基づいた資料(証拠)を分析する研究をしている。
人間はさまざまなバイアスにとらわれている。最初に出てくるのが「私は他人より、ものが見えている」という「優越の錯覚」というバイアスだ。アメリカの研究者の調査では、7割の人が自分は平均以上だと考えているそうだ。
本書の構成は以下の通りだ。
第1章 バイアスの使い方を知って負けない武器としよう 第2章 科学への関心が仲間をつくり、敵を遠ざける 第3章 言語学を駆使すれば騙されない、勘違いされない 第4章 バンプ・オブ・チキン(貧者の一撃)を食らわせよう 第5章 相手の勘違いや思い込みをゼロにする「神の伝え方」
自分の望むセリフを相手の口から引き出すマンガの主人公、ジョジョの話が出てくる。これは「語法効果」と言われ、自分が持っていきたい回答の方向性が、前提として単語の意味に含まれているものを使っている。
「頻繁に頭痛になりますか」 「たまに頭痛になりますか」
前者と後者では答えに3倍以上の差が出るという。
さまざまなバイアスが紹介されている。たとえば、つねに自分が正しいと信じ、自分にとって都合のいい情報だけしか取り入れない「確証バイアス」だ。「みんなが」というときの「みんな」は、数人に過ぎず、限られたサンプルでの「普通」や「常識」にとらわれているというのだ。
そのわかりやすい例が、SNSのフォロワーだ。
「ツイッターで、自分と近しい考えの人ばかりをフォローしていると、タイムラインには自分と同じ意見がどんどん目に入ってきます」
こうしてバイアスは強化されてゆく。これをうまく利用した心理操作を「バーナム効果」というそうだ。
占い師に「あなたは幸運な星の下に生まれている。だから一生懸命がんばればうまくいく」と言われれば、当たっているような気がする。誰にでもあてはまるようなことを言って、勘違いさせるのだ。
これは相手を鼓舞するときには有効な手段となる。
新型コロナウイルスへの対応に追われる世界各国の首脳らを見ていて、本書の「権力者たちの落とし穴とは?」という項目にハタと思った。
一橋大学の佐々木秀綱氏の研究によると、「自分に権力があると感じている人ほど、しっかりと考えるよりも、直感的にリスクのある選択をする傾向がある」そうだ。
つまり、権力を持つ人のほうがリスクを低く見積もってしまうバイアスがある、と指摘する。
このほかにも、人を「バカ」と言う人のほうがバカという根拠、なぜ「昔のほうがよかった」と思い込むのか、などありがちな思い込みを科学的に説明している。巻末の参考文献もほとんどが英米の論文で、ありがちな俗流心理学の本とは一線を画す内容になっている。
「バイアスは、音もたてずに忍び寄ります。私たちは、どれだけ客観的になろうとしても、勉強を深めても、確証バイアスから完全に逃れることはできないのです」
科学的研究すら絶対視しないという態度に、著者の良識を見る思いがする。
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