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記者会見を「炎上」させないためには

なぜあの学校は危機対応を間違えたのか

 最近、生徒の自殺やいじめなどをめぐり、学校で記者会見が開かれるケースが増えている。昨年(2019年)発覚した神戸市立小学校における教師の同僚いじめでは、記者会見の言動におかしな点があり、それがさらなる危機的状況を招いた。本書『なぜあの学校は危機対応を間違えたのか』(教育開発研究所)は、実際に起きた失敗事例を踏まえ、被害を最小限に抑え信頼を守るための考え方とスキルについて、危機管理のプロがまとめた本だ。

「私は寝ていないんだよ!」で注目

 著者の石川慶子さんは広報PR会社を経て独立。リスクマネジメントの観点から戦略的、実践的なメディアトレーニングプログラムを提供している。著書に『マスコミ対応緊急マニュアル 広報活動のプロフェッショナル』(ダイヤモンド社)がある。

 学校にかんしては、2005年から2010年まで、茨城県つくば市にある教員研修センター(現・独立行政法人教職員支援機構)で幹部教職員を対象にリスクマネジメントの研修講師を務めた。そうした経験を生かし、「月刊 教職研修」(教育開発研究所)に連載したものを加筆修正したのが本書だ。

 危機(クライシス)が発生したときに説明責任を果たすことで信頼失墜を防ぐ活動を「クライシスコミュニケーション」と定義している。日本では「危機管理広報」と呼ばれることもあるが、広報=お知らせという誤解を招かないよう、本書では「クライシスコミュニケーション(CC)」と記述している。

 日本でクライシスコミュニケーションが注目されるようになったのは、2000年夏に近畿地方を中心に発生した集団食中毒事件における会社側対応の失敗からだった。社長の「私は寝ていないんだよ!」という言葉がくりかえし報道され、企業の信頼失墜を招いた。起こしたことよりも危機発生後の対応が批判される事態になることを「クライシスコミュニケーションの失敗」というそうだ。

 本書は以下の構成になっている。「第1章 学校CC入門」「第2章 リスクマネジメントの訓練」「第3章 緊急記者会見への備え」「第4章 あの事件・事故の教訓」「第5章 【対談】外から見た学校CC」。

学校の外から情報は流れる

 ところで、なぜ学校は記者会見における説明責任を求められるのだろうか。石川さんは「学校を取り巻く関係者が報道機関に情報提供するからです」と説明する。

 保護者、地域住民、議員、警察など、学校と接点がある人たちから報道機関へさまざまな動機で情報が流れる。実際に評者は過去に学校にかかわる不祥事や事件を何度も取材し報道した経験があるが、そうした情報はどこからか確実に漏れるのである。隠しきれるものではない。

 石川さんはダメージを最小限にする「初動3原則SPP」を示している。SPPとは、ステークホルダー(利害関係者)、ポリシー(方針)、ポジションペーパー(説明文書)の略だ。

 ステークホルダーはいじめであれば、加害者とその保護者、被害者とその保護者、周囲の友人とその保護者、教職員、カウンセラー、教育委員会などだ。暴力行為を伴えば警察も入り、自殺という最悪の事態にいたれば報道機関、地域住民、議員、首長、文科省と利害関係者が増える。優先順位を決めておくことが大事だ。

 ポリシーで最も重大な判断は、記者会見をするか否か、だ。報道機関への初期対応として重要なのは取材拒否したり、逃げたりしないで、いつどのようなかたちで説明責任を果たすのか、学校の方針をきちんと伝えることだという。記者会見を開くのか、報道資料を配るのか、だれが報道窓口なのか。対応する姿勢を見せることが肝要だ。

 ポジションペーパーとは、現時点での状況を客観的視点から整理した文書だ。必ずしも外部に公表する必要はない。内部資料としてもいいし、問い合わせがきたときの手元回答資料としてもいい。

 「第3章 緊急記者会見への備え」を読み、かつて評者が取材する側ではなく、広報責任者として記者会見に臨んだときのことを思い出した。詳細な「想定問答集」をつくったことはもちろんだが、「最低防衛ライン」を設定した。これを石川さんは「絶対言わないこと」を明確にしておく、と書いている。

 真実を明かそうと追及してくる記者たち。ひとりで数十人と対峙すると、感じる圧は生半可なものではない。かつて追及する立場だったからポイントはわかっている。なんとか事態をうまく切り抜けることができたが、初めて記者会見をする人は頭が真っ白になるだろう。本書では具体的なトレーニング方法も紹介している。

 また、記者会見の準備チェックリストも。自治体広報課に支援を要請したか、場所は体育館を避けたか、会場の出入り口は二つあるか、記録用カメラは準備したか、服装はその場にふさわしいか、などかなり実践的だ。

 「第4章 あの事件・事故の教訓」では、宮城県の石巻市立小学校で起きた津波死亡事故など、4つの事例をもとに解説している。

 さらに、「第5章 【対談】外から見た学校CC」では、弁護士、臨床心理士、スタイリスト、ウォーキングディレクターの4人と対談し、さまざまなアドバイスを紹介している。

 本書は「学校」を対象にしたものだが、一般企業でも役立つスキルが満載だ。社会部記者が退職後に、危機管理担当として企業や大学、学校に再就職するケースは珍しくない。攻守立場を切り替える訳だ。本書を読み、ワイシャツやネクタイ、靴、歩き方までよい例、悪い例があることを知り、評者は冷や汗が出てきた。

 それでもなんとかなったのは、問題発生後すぐに記者会見の場所と時刻を設定したからだと思う。記者会見をコントロールするのか、追い込まれて開くかでは天地の差がある。学校関係者のほか、すべての広報マンに勧めたい一冊だ。

  • 書名 なぜあの学校は危機対応を間違えたのか
  • サブタイトル被害を最小限に抑え信頼を守るクライシスコミュニケーション
  • 監修・編集・著者名石川慶子 著
  • 出版社名教育開発研究所
  • 出版年月日2020年1月24日
  • 定価本体2000円+税
  • 判型・ページ数四六判・160ページ
  • ISBN9784865605204
 

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