さまざまな「ブラック」の指摘や告発が近年盛んになっているが、学校の内部でも暗黒が広がっているとは...。本書『ブラック校則』(東洋館出版社)は、トンデモ校則の蔓延ぶりを指摘したもの。学校は「生きるための知恵を身につける場所」なのに、子どもたちの安全や健康が脅かされているのが現状だ。ブラック企業なら転職もできるが、ブラック校則相手にはなかなかそうはいかない。
髪の毛の長さを指定する規則は以前からあったようだが、豊かさが増すようになってからは「パーマ禁止」「茶髪禁止」が加えられている。ブラック校則が取りざたされるきっかけは、そんな頭髪をめぐるルールからだった。
大阪で2017年、生まれつき茶髪の女子高生が、通学する高校で校則違反を指摘され、学校側は「黒染め」を強要。生徒側は精神的被害を受けたとして学校側を提訴し、報道でも大きく取り上げられた。この問題を放置できないと感じた有志により「ブラック校則をなくそう!プロジェクト」が立ち上げられ、編著者の一人、評論家の荻上チキさんは同プロジェクトのスーパーバイザーを務める。
同プロジェクトでは18年2月、ブラック校則について調査会社を通じて実態調査を実施。本書では、学校での「組み体操」による事故や体罰など「学校リスク」に詳しい名古屋大学の内田良准教授を編著者に加えて調査の内容を紹介するほか、学校や子どもをめぐる問題などの専門家がさまざまな角度から校則を論じている。
頭髪もそうだが、校則は身だしなみについてのものが多い。北海道の「公立高校の当事者」からは、暑くてもブレザーを脱ぐなとされ、寒くても登下校時にパーカー着用禁止という、これだけ聞けば理不尽としか思えない校則の実際が寄せられた。「違反して教師に保護者ごと呼び出される生徒もいれば、暑さのために熱中症に近い症状で倒れる生徒もいた」という。
温暖化現象の影響で、生活環境が変化しているのにもかかわらず、学校では「慣性バイアス(前例を踏襲する傾向)」などが作用し、時代に取り残され遺物のようになって、それがブラック化にもなっている。かつて多くの学校であった「水飲み禁止」は、実態調査によれば、若い世代になればなるほど経験率が下がっているが、日焼け止めやリップクリームについて禁止を経験した者の割合は増加している。
日焼け対策や唇の荒れ対策などのアイテムは現代では健康対策に欠かせないもの。調査では「大人であれば当たり前に利用できるものが過剰に取り締まられている傾向が浮き彫りになっている」という。
生まれつきの「茶髪」の黒染め強要や、気候や個人の身体的状況も無視した一律化の押し付け、健康対策をいつまでの「おしゃれ」と誤認しての禁止などなど、学校側にもさまざまな理由づけはあるようだが、少子化や学校選択制が進むなか、学校が「地域へのアピール」を拡大したり、教員の多忙化による一括管理化の影響もあるとみられる。
健康の面への悪影響があるにもかかわれず、増加しているルールとして本書は「置き勉禁止」を指摘する。教科書などの荷物を学校に置いて帰ってはいけないというものだ。引用されている、都内の民間学童保育に通っている低学年児童のランドセルの重さを測った調査によると、平均の重さは約7.7キログラム。最高は9.7キログラムで、それは「大人でも持ち歩かない量の荷物」の重さだ。
さすがにこの問題は、小さい体に同じ大きさくらいの荷物を持った子どもたちの登下校する姿が痛々しかったのか、懸念の声の高まり、文部科学省は今年9月、全国の教育委員会などに対し、重量などに配慮するよう求める通知を出した。
個々の学校では、学校間の競争や広範なトラブル防止のため、事なかれ主義で「規制の押し付け」が増える傾向にあるという。本書では「昨今の『携帯持ち込み禁止』はその代表例であろう」という。携帯をめぐる禁止規則は、ネットいじめが話題となった2000年代後半頃、各学校が実施していったものだが、こちらは、文科省が「原則持ち込み禁止」の通達を出し、さらに上塗りをした格好になったという。
本書ではまた、東京都中央区の公立小学校が今年2月に、高級ブランド、アルマーニを導入すると発表して議論を巻き起こした制服問題などについても紙数を割いて議論。アルマーニ制服の問題に限らず、校則により通学用自転車まで指定するケースなどもあり、校則は、経済的な面でもブラック化が目立つようになっている。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?