男子テニスの国別対抗戦デビスカップの本選が、2019年11月、スペイン・マドリードで開かれている。19日、1次リーグA組の日本はひじを負傷中の錦織圭を欠きながらも昨年準優勝のフランスから金星を挙げる目前まで迫ったが、1-2で惜敗した。20日には、セルビアに負け2連敗となり、同組最下位の3位で敗退が決まった。日本は来年の本選シード権を逃がし、3月6、7日の予選に回ることになった。
錦織圭や大坂なおみの活躍に沸く日本のテニス界。しかし、世界の壁は厚いことをあらためて思い知らされた。
本書『ジョコビッチはなぜサーブに時間をかけるのか』(集英社新書)は、有名選手の何が凄いのか、繰り広げられる駆け引きの妙、テニス固有の魅力などについて、名解説者として知られる鈴木貴男さんが書いたものだ。多くのテニスファンはいかにこれまで自分が勝ち負けに一喜一憂し、試合を「ぼーっと」見ていたか、気づかされるに違いない。
鈴木さんは、1976年札幌市生まれ。全日本選手権シングルスで3度優勝。デ杯代表選手として通算41勝を記録。ATPシングルスランキングは最高102位の「現役レジェンド」だ。
鈴木さんはテニスの特徴として、グラス(芝)コート、ハードコート、クレー(土)コートとさまざまなサーフェス(コートの表面)があることをまず挙げている。ボールのスピードや弾み方、フットワークに与える影響が異なるため、選手によって向き不向きがある。
「史上最高のテニスプレーヤー」と称されるロジャー・フェデラー(スイス)は、グランドスラムの優勝回数は歴代最多の20回(2019年現在)。特にグラス(芝)コートではウィンブルドン(全英オープン)の5連覇を含めて8回優勝している。ハードコートでも全豪で6回、全米で5回優勝。しかし、クレーコートの全仏では1回しか優勝していない。
一方、「ビッグ3」のひとり、ラファエル・ナダル(スペイン)は、グランドスラム大会で唯一クレーコートを使用する全仏オープンで12回も優勝している。ほかの3大会での優勝回数は合わせて7回だから、クレーコートを得意にしていることはよく知られている。
スペインは国内の大会にクレーコートが多いのも理由だが、強烈なトップスピンをかけたストロークを武器とするナダル。クレーコートはボールが遅くて高く跳ねるのが特徴だが、トップスピンをかけたボールはバウンド後にあまり失速しない。高くバウンドしながらも伸びるので相手は対応が難しい。だからクレーコートでは強い武器になる、と説明する。
さらにナダルが左利きであることが最大の要因だという。ナダルがフォアで打つストロークには強いスピンがかかっているので、右利きの選手は早くて高く弾むボールをバックハンドで打つことになる。これが技術的にかなり難しいそうだ。
ボールのスピードがいちばん早い芝、いちばん遅いクレー。バウンドが低い芝、高く弾むクレー。クレーの全仏と芝のウィンブルドンは短期間に立て続けに開催されるので、プレーの切り替えが難しい。だから全仏とウィンブルドンを同じ年に優勝するのは至難の業だという。過去に2009年のフェデラーを含めて4人しかいない。
さて、本書のタイトルにもなっているジョコビッチはどうだろう。フェデラーとナダルに次いでグランドスラムでの優勝回数が多い。ジョコビッチがまだ17歳の頃に鈴木さんは対戦し勝ったことがある。あまり強い印象を受けなかったのは突出した個性がなかったからかもしれないという。逆に言えば、総合力が高く、どのサーフェス(表面)でも満遍なく勝てる選手、と評価している。
ひとつ特徴を挙げると、不調でも執念深く戦う、ずる賢さだという。サーブの前に何度もボールをついて相手のリズムを乱すのもその表れだ。さんざん待たされてじりじりしているところに、あっという間に打つ。リターンのタイミングが合いにくくなる。
錦織はジョコビッチに15連敗中だ。本書では、錦織がジョコビッチに勝つ方法を4ページにわたり解説している。興味のある人はぜひ読んでもらいたい。
なぜ、「バックハンドのクロスの打ち合い」がラリーの基本なのか、なぜ両手バックハンドの選手が主流になったのか、など初心者が疑問に思っていることを丁寧に説明している。
錦織と大坂の活躍に「日本のテニス界は盛り上がっている」という風潮には違和感があると、鈴木さんはあとがきに書いている。二人の知名度が上がり、ふたりに人気が集まっているだけだと。
もっと多くの日本人選手が世界のトップで活躍し、東京五輪でメダルを獲ることも重要だという。本書を読めば、テニスの見方が確実に変わる。テニスへの理解が、デビスカップで日本が優勝する日を実現する一歩になるだろう。
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