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妖怪ばかり訪れる「新宿本姫図書館」

新宿もののけ図書館利用案内

 「この図書館は、人間でない方でも、だれでもご利用いただけます。借りた本を返す際には、必ず別の本を一冊添えて返すこと」――。

 峰守ひろかずさんの本書『新宿もののけ図書館利用案内』(メゾン文庫)の舞台は、そんな怪しい利用案内を掲げる「新宿本姫図書館」。「人間でない方」つまり妖怪ばかり訪れる。個性豊かな妖怪たちは、新宿の伝承がベースになっているという。

実在の資料を参考に

 著者の峰守ひろかずさんは、電撃小説大賞<大賞>受賞作『ほうかご百物語』で2008年にデビュー。滋賀県在住。

 峰守さんは、本書で引用・言及した怪談について「実在の資料を参考にしていますが、一部のみの引用や意図的な解釈を行っている箇所もあります。作中の説明をそのまま信じられませんようお願いいたします」と注記している。この前提に立った上で、「新宿本姫図書館」と主人公に関係する伝承を紹介しよう。

・舟町(ふなまち)の本姫(ほんひめ)伝説
「江戸時代に『本姫』と呼ばれる読書好きの姫様がいた。その墓前には多くの本を収めた経蔵が設けられ、誰でも本を借りることができたが、読み終えた後は必ず別の一冊を添えて返すというルールがあった。また、本を返さないと、夜な夜な本姫が催促に来たという」
・牛込山伏町(うしごめやまぶしちょう)の喋る猫
「寺で飼われていた猫が『普通の猫は十年も生きれば口を利くが、自分のように狐と交わって生まれた猫は十年経たなくても話せるのだ』と和尚に語ったという」

 「新宿」と「伝承」の組み合わせは意外性がある。この着想を得たきっかけがあとがきに書かれていた。出版社との最初の打ち合わせで「妖怪もので、実在の場所が舞台だといいかも」と意見をもらった峰守さん。その少し前に新宿歴史博物館の「幻想の新宿」展を見たことを思い出したという。

 「新宿区の伝承や怪談を紹介するこの特別展では、興味深い話を幾つも知ることができ、その中でも印象に残ったのが『本姫伝説』」だった。そこで「これをベースにして、新宿に人間じゃないモノたちの図書館があるという話」を思いついたそうだ。

 資料とデータベースから地図の上に落としていくと、四十ほどの伝説を拾うことができた。そこから全五話の構成に合わせて妖怪を選び、連作としてまとめたのが本書だという。

主人公は「自信が持てないコンビ」

 本書の主人公は、妖怪と人間の「自信が持てないコンビ」。

・牛込山伏町カイル
真面目で礼儀正しく、心配性な化け猫。「新宿本姫図書館」の館長代理。館長の本姫が引退し、常連だったことから館長代理に任命された。本好きで知識は豊富だが、図書館運営は素人。
・末花詞織
頑張り屋だが消極的で押しに弱い。別の図書館をクビになり「新宿本姫図書館」の求人に応募。妖怪専用図書館と知り困惑するが、ひとまず試用期間の四か月、司書として勤務を決める。

 本書は「第一話 初めて図書館へ来られた方へ」「第二話 館長代理は席を外しております」「第三話 お借りの本は返却期限を過ぎています」「第四話 落語会のお知らせです」「第五話 館内ではお静かにお願いします」からなる。

 歌舞伎町界隈を飲み歩く女好きで酒好きの化け猫、落語家の兄弟弟子の狐と狸、松の木の精霊、記憶喪失の閻魔などが、次々と「新宿本姫図書館」を訪れる。

 妖怪たちの濃いキャラクターとともに、試用期間中に育まれていくカイルと詞織の信頼(恋愛)関係も見どころ。詞織の仕事ぶりに尊敬の念を抱くカイルと、「本姫図書館」の仕事にやり甲斐を感じはじめる詞織。しかし、そもそも人間を雇ったことが館長の本姫にバレたら大変なことになるという――。

 伝承好き・歴史好きの方はもちろん、それらの知識がない方が読んでも、新宿にこんな伝承があったのかと、驚きの連続で面白く読めるだろう。同時に、自信のない二人の主人公が互いに成長していくお仕事小説、恋愛小説としても楽しめる。

  • 書名 新宿もののけ図書館利用案内
  • 監修・編集・著者名峰守 ひろかず 著
  • 出版社名株式会社一迅社
  • 出版年月日2019年4月20日
  • 定価本体630円+税
  • 判型・ページ数文庫判・266ページ
  • ISBN9784758091633

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