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日本はアメリカに裏切られた!

平成経済 衰退の本質

 失われた10年が20年になり、今や30年と言われるようになった。本書『平成経済 衰退の本質』 (岩波新書)もそうした視点から平成経済を総括したものだ。著者の金子勝さんは経済学者。法政大や慶応大の教授を経て、現在は立教大経済学研究科特任教授。多数の著書があり、メディアに登場する機会も多い。

どう見ても、衰弱する国

 読者の中には、「日本は頑張っている」「失われていない」と思っている人も少なくないだろう。しかしながら、本書18ページの図表「各国のGDPの推移」を見ると、がっくりするに違いない。

 日本のドル建てで見たGDPは明らかに停滞したまま。これに対し、アメリカは1995年段階では日本の1.4倍の約7兆6400億ドルだったが、2017年は日本の約4倍の19兆4850億ドルに。中国は1995年段階では日本のわずか7分の1の7370億ドルだったのが、2017年には日本の約2・5倍の12兆ドルに急成長している。

 似たようなデータは経済評論家、森永卓郎さんの著書『なぜ日本だけが成長できないのか』(角川新書)にも出ていた。世界のGDPに占める日本のシェアは1995年には17.5%に達していた。しかし、その後は転落を続け、2010年には8.6%、16年には6.5%まで落ち込んだ。つまりこの20年余りで日本のGDPシェアは約3分の1に縮小した。アベノミクス以降も確実に落ち込みが続いている。

 金子さんは「どう見ても、日本は衰弱する国である」と書いている。

 「ナショナリズムをかき立てて、いくら中国が嫌いだと言ったところで、何も始まらない。実際、中国のファーウェイや韓国のサムソン(本書表記)に勝てる日本企業は見当たらないからだ。かつて世界有数のシェアを誇っていた日本製品は自動車を除いて次々とシェアを落とし、情報通信、バイオ医薬、エネルギー関連などの先端分野では、日本企業は完全に立ち遅れてしまった」

日米半導体協定が「衰退の始まり」

 先のGDPデータで、日本人が「あれっ」と思うのは、日本とアメリカとの差ではないだろうか。80年代には「ジャパン・アズ・ナンバーワン」とさえ言われていたのに、いつのまにか日本は置いてきぼりになり、アメリカだけが躍進を続けている。米国と「日米同盟」「日米協調」で二人三脚だったはずなのに、どうなっているのか。なんだかパートナーに裏切られた気分だ。

 金子さんは問題の起源を1986年、91年の「日米半導体協定」に見る。日本の半導体は80年代に技術力、売上高で米国を抜いてトップになり、世界シェアの50%を超えたこともあった。ところが日米半導体協定のダンピング防止で価格低下が止められ、さらに日本市場における外国製半導体のシェアを20%以上に引き上げることも強いられた。その結果、日本の半導体産業が競争力を失い、情報通信産業で決定的に取り残されることになった。「産業のコメ」と言われた半導体交渉で大きな譲歩を強いられたことが日本の衰退につながったというわけだ。

 「日米半導体協定以降、政府が先端産業について本格的な産業政策をとることがタブーとなり、『規制緩和』を掲げる『市場原理主義』が採用され、すべては市場任せという『不作為の無責任(責任逃れ)』に終始するようになった」
 「アメリカの要求に譲歩すれば、日本の産業利害を守れるという思考停止が今も政府(とくに経産省)を支配している。むしろ、安倍政権になってから、より一層強まっていると言ってよい」

エネルギー問題と自動車が不安

 本書では「アベノミクス」にも触れられているが、当然ながら全く評価されていない。「日銀や年金基金などによる"官製"株式相場と財政ファイナンスによる"バラマキ"によって、見せかけの景気を演出」と手厳しい。このあたりは、既に多くの論者の指摘するところでもある。

 しばしば言われていることではあるが、今後のことで一般の読者が気になるのは、以下の三点ではないだろうか。

 一つはエネルギー問題。日本は原発に固執しているが、世界は転換を図っており、日本だけが取り残されつつあるということ。核燃料サイクル政策を止めれば、使用済み核燃料は「原料」となる「資産」から膨大な費用の掛かる「経費」になり、電力会社の経営が傾く。すなわち原発は不良資産の塊なのだという。もう一つは次世代の自動車。自動運転はアメリカがリード、電気自動車(EV)でも日本は出遅れている。さらに研究投資額の多い企業の世界ランキングによると、1位はアマゾン、2位グーグル、3位インテル、4位サムスン。ファーウェイは6位と推定され、トヨタは11位。この先の競争でも日本は立ち遅れそうだ。

 本書の指摘は、森永卓郎さんの『なぜ日本だけが成長できないのか』と重なる部分が少なくない。森永さんも、1985年のプラザ合意以降、「対米全面服従」によって、長い時間をかけて日本はアメリカに叩き売られてきたと見る。金子さんも「アメリカについていけば、すべてうまくいくという思考停止の『外交』が産業の衰退を一層加速させるようになっている」と指摘している。

 トランプ大統領が、あれこれ理由を付けて日本にさらなる譲歩を迫っていることはしばしばニュースで報じられている。日米経済交渉は、アメリカが得をして、日本が我慢を強いられることの連続で、それが今日の日本の停滞を招いているのではないか。結果的にアメリカの陰謀に嵌められ、経済面で「第二の敗戦」を強いられているのではないか。本書を読んで、そんな気がしてきた。現在の「米中対決」なども、この文脈で考えると分かりやすいかもしれない。米国は自分たちを凌駕しようとする国に対しては容赦ない。

 BOOKウォッチでは関連で、経済学者の野口悠紀雄氏が「失われた30年」を分析した『平成はなぜ失敗したのか』(幻冬舎)、社会学者の吉見俊哉氏による『平成時代』(岩波新書)、ジャーナリスト堤未果さんの『日本が売られる』(幻冬舎新書)なども紹介している。

  • 書名 平成経済 衰退の本質
  • 監修・編集・著者名金子勝 著
  • 出版社名岩波書店
  • 出版年月日2019年4月20日
  • 定価本体820円+税
  • 判型・ページ数新書判・206ページ
  • ISBN9784004317692
 

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