なんとも刺激的なタイトルだ。本書『男を買ってみた。』(駒草出版)を見て、キワモノ的な内容かと思ったら、そうではなかった。「女性専門の生活カウンセラー」として、17年間、5000人以上接してきた著者自ら、女性専用性感マッサージ、レンタル彼氏といった女性向け性サービスに潜入した実体験ルポが中心になっている。しかし、決してサービスの利用を勧める内容ではない。
著者の鈴木セイ子さんは明星大学人文学部心理・教育学科卒の生活カウンセラー。さまざまな相談の中でも、ここ数年増えているのが性に関する相談だという。それもパートナーとの関係修復ではなく、「性交痛があってセックスが楽しくない」「オーガズムを経験したことがないのは自分のカラダがおかしいのか」「30歳なのにまだ経験したことがない」など、「セックスを主観的にとらえて、かつ性生活のクオリティを求める」ような内容が多いというのだ。
鈴木さんがふだん関わる30代後半から50代女子の7割がセックスレスで、鈴木さん自身もそうだという。友人が女性専用性感マッサージを利用していることを知り、取材を始める。実は20~30代女性の利用が多いことも分かるが、鈴木さん自身の潜入レポートが何といっても面白い。
第2章は体験レポートだ。女性専用性感マッサージでは、120分1万5000円~2万円+セラピスト指名料+ホテル代の料金やサービス内容の説明の後、いよいよ鈴木さんの体験談が登場する。
若いイケメン男性の登場に舞い上がり、彼が持参した簡易式のアロマ加湿器に感激する。
「キスをしながらベッドへ腰かけ、私は仰向けに倒れた。耳や首元を何度も往復し愛撫される。ワタルの息遣いで私の下半身も潤沢になっていくのが分かる」
なおも描写はエスカレートする。「これ"本番"我慢するのしんどいね」という鈴木さんのことばでサービスは一段落する。
女性が一番重んじる"前戯"を100%で応えてくれ、カウンセリングとはまた違ったメンタリティのケアまで行き届いている、と評価する。その一方で、「彼らはあくまでも"仕事"なので、ハマりすぎないように注意が必要だ」と釘をさすのも忘れない。
こんな調子で、「レンタル彼氏」「ホストクラブ」「出張ホスト」と潜入取材は続く。料金やサービス、注意点なども書いているので、関心のある人は本書を読んでもらいたい。
第3章ではサービスを提供する男性へのインタビューが紹介される。「大丈夫?」というフレーズが必ず出てきたという。日常の営業メールや営業トークの大定番ということは分かっていても女性を喜ばせる「魔法の言葉」だという。
性感サービスを利用した女性たちの書き込みには、「自分を受け入れてくれたことへの感動と感謝」が多くつづられているという。そう感じた一番の行為は「愛の言葉」だそうだ。
また、彼らが共通して言っていたのは、「世の中の男性が女性を理解しようとしない。女性もどう伝えていいのかが分からない」ということだった、と書いている。
本書を読んだ既婚者は、男性女性を問わず、自らの家庭について考えざるを得ないだろう。
男性向けの性サービスについての本は古今東西を問わず、世にあふれてきた。しかし、女性向けの本が登場したのはこの分野に耳聡い評者も寡聞にして初めてだ。すでにネットにこうした情報はあふれているようだが、書籍化されるというのは次元の異なること。版元もその点にかんしては注意を払ったようだ。
本書の内容は一線を越えていない。また鈴木さんも夫に今回の取材のことは伝えていないという。
この種のテーマではたちどころに複数の女性作家の名前が浮かぶが、新たな書き手の登場ということになるのだろうか。
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