読むべき本、見逃していない?

猫、野良猫、ノネコ・・・大きな違いを知ってる?

  • 書名 奄美のノネコ
  • サブタイトル猫の問いかけ
  • 監修・編集・著者名小栗有子、星野一昭ら20人 著、鹿児島大学鹿児島環境学研究会 編
  • 出版社名南方新社
  • 出版年月日2019年4月29日
  • 定価本体2000円+税
  • 判型・ページ数A5判・282ページ
  • ISBN9784861244001

 「世は猫ブーム」だと言っていいのだろう。全国で飼われている猫は約964万9000頭(ペットフード協会調べ・2018年、犬約890万3000頭)。猫関連の本は2018年に707冊(国会図書館調べ、犬関連422冊)が出版された。

「侵略的外来種」でもある

 それでも「ノネコ」と呼ばれる猫を知る人は少ないはずだ。野良猫を想像するかもしれないが、そうではない。猫(リビアヤマネコを祖先に持つ)は、家猫、野良猫とノネコに分けられる。家猫は飼われている猫。野良猫も給餌に与るという意味で広義の飼育猫だ。ノネコは飼育されていない飼い猫が再野生化したものを指す。野生猫でも祖先がベンガルヤマネコのイリオモテヤマネコは別種だそうだ。そのノネコが一部で問題化している。本書『奄美のノネコ』(南方新社)はそれがテーマだ。

 編集に当たったのは鹿児島大学鹿児島環境学研究会。国立大学が独立行政法人に移行して以降、地域貢献を目的に地元とタイアップして組織された、地元密着型の研究チームだ。国や鹿児島県、奄美市の職員、ノネコ対策活動の地元NPOメンバーらが参加している。

 猫は動物愛護法で愛護動物に指定されている。その一方で意外なことに、ブラックバスやヒアリ、アカミミガメなどと並ぶ歴とした「侵略的外来種」(国際自然保護連合種の保存委員会指定)でもある。肉食に特化した裂肉歯を持つ優秀なハンターで、街中から森林まで生息。繁殖力も旺盛だ。妊娠期間は約2カ月で3~6匹を産む(生存率約3割)という。

 愛護動物と侵略的外来種。背反する問題に直面しているのが奄美群島、特に奄美大島と徳之島だ。泣き声による騒音や糞尿などよく耳にする苦情だけではない。横行するノネコが、アマミノクロウサギやケナガネズミ、アマミトゲネズミなど希少野生生物を捕食。深刻な脅威になっている。さらに沖縄を加えた群島は世界自然遺産登録(国際自然保護連合から記載延期勧告が1度出された)を目指している事情が加わる。

徳之島と奄美大島で事情が異なる

 徳之島で対策が始まったのは2012年度だ。試験的にワナを使って40日間で17頭を捕獲。驚異的な数だという。14年度には生息状況の調査が行われ、150~200頭の生息推定値が示された。

 調査が進むにつれて捕食被害に遭った希少動物の死がいも増加。14年夏には1カ月ほどで9頭も見つかった。「放置すれば希少動物は5年で絶滅する」という見方が一部研究者から出るほどの状況だったという。

 その後も捕獲活動は継続され、14年度以降17年度までに捕獲したノネコは235頭に。それにつれて希少動物の生息推定値も回復している。ただ、ワナを警戒するノネコの存在も明らかになり、新たな対策が求められているそうだ。活動はいまも進行中だ。

 もう一方の奄美大島は事情が異なる。ここで詳しくは触れないが、簡単に紹介しておく。1979年に毒ヘビ駆除のためにマングース30頭が放たれた。これが最大時には約1万頭に増殖。農業や希少動物に被害を与えるようになる。このマングース対策の中で明らかになったのが、ノネコ被害だ。マングースは地元住民団体や行政機関の粘り強い活動が実って被害は縮小。代わって2018年度からノネコ対策に重心が移っている。マングースは現在50頭程度。それでも当初の30頭よりも多い。ノネコは600~1200頭だ。

 こうした奄美での取り組みは、世界で実施されてきたノネコ対策に比べて重要な意義を持つ。実施対象となる面積が、けた違いに広いことだ。これまでに報告された島での対策件数は83で、ほとんどが10平方キロ未満(最大は290平方キロ)だが、奄美大島は712平方キロ、徳之島は248平方キロと大きい。居住人口も最大クラスだ。

「TNR」の効果が見込めない

 著者の一人・小栗有子さん(鹿児島大学准教授)は、奄美のノネコ対策の意義を「単に面積と人口で大規模な対策であるだけではない」として、こう続ける。「風土や歴史性の違いによって形成されてきた動物への意識や態度の違いが、西欧と日本の文化的違いを超えて、これからの人と動物とのかかわりを世界に示すための社会実験でもある」。

 本書は、対策がいかに困難であるかを紹介している。ほとんど書かれていないが、絶え間ない抗議や命を奪うことの辛さなど......関係者のストレスは想像に余りある。

 そのほかTNRについても考えさせられた。これは猫を捕らえて(trap)、不妊化し(neuter)、再び放つ(return)活動で、殺さずに繁殖を抑えて個体数を減らす対策だ。全国で広く導入されているので、知る人は多いだろう。

 しかし、本書で紹介される研究では、あまり効果が見込めないのだそうだ。旺盛な繁殖力があるため、不妊化の実施率が全体の71%~91%にならなければ、個体数減にはつながりにくい。新たに持ち込まれる捨て猫も考えると、至難のわざだ。さらに費用負担も大きい。1頭当たり1万5000円~3万5000円だ。

 冒頭で紹介したように、猫ブームだ。しかし猫や犬はいったん再野生化してしまうと対策は厄介だ。評者はかつて山間部の廃校を取材に行って野犬に追いかけられた経験がある。懸命に逃げて事なきを得た。ノネコはめったに人を襲わないので見過ごしがちだ。それでも、はずみで咬みつくこともある。2016年には野良猫に咬まれた女性が、ダニ媒介の重症熱性血小板減少症候群で死亡している。国土の67%を森林が占める日本では大問題化する恐れもある。言い過ぎだろうか。

 鹿児島大学鹿児島環境学研究会は『鹿児島環境学I』(南方新社)、『鹿児島の100人100の風景』(南日本新聞社)などを出版。

 BOOKウォッチでは猫関連の本として、『猫はこうして地球を征服した』(インターシフト)、『猫神さま日和』(青弓社)、『新宿の猫』(ポプラ社)など多数を紹介している。

BOOKウォッチ編集部 森永流)

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