90歳を超えても元気に著作を出版する女性が目立っている――そんな記事をJ-CASTが掲載したのは2016年11月11日のこと。その中でも最高齢として紹介されていたのが美術家の篠田桃紅さんだ。1913年3月生まれ。当時すでに100歳を超えておられ、『一〇三歳になってわかったこと』(幻冬舎)が50万部を超えるベストセラーとなっていた。本書『一◯五歳、死ねないのも困るのよ』(幻冬舎文庫)はその続編といえる。
本書の原本は17年10月に出版された単行本。出版元の幻冬舎では、今回の文庫版用の注釈で「数えで一〇七歳になった今も第一線で制作している」という一言を付している。
篠田さんは森英恵さんなどと同じように戦後、世界的に名声を得た女性の1人。元々は書道家だが、新しい抽象的なスタイルの書に挑戦し、GHQ(連合国軍最高司令官総司令部)のアート好きの人などの間で注目を集めるようになる。その縁もあって1956年、43歳の時、米国で展覧会を開く話がまとまり、「墨の芸術、海を渡る」と日本の新聞でも大きく取り上げられた。
米国はちょうど抽象絵画や現代美術の隆盛期。2年間滞在し、シカゴの美術館やワシントンDCのギャラリーなどで展覧会を開き、前衛的な「墨アート」の作家として国際的な評価を不動のものにした。
所属している団体や流派、師弟関係などの拘束が厳しい日本の書の世界の枠から飛び出して、オリジナルに自分の芸術を切り開いた人だ。
本書は「第一章 歳と折れ合って生きる」、「第二章 幸福な一生になりえる」、「第三章 やれるだけのことはやる」、「第四章 心の持ちかたを見直す」の4章仕立て。
「楽観的に生きる」「若き日も暮れる日も、それなりにいい」「人間ってこういうもの」「そよ風に吹かれるだけで、なんて恵まれているのだろうと感じることのできる幸せ」「いい思い出になるように工夫する。そうすれば、人生の終わりまでも豊かにしてくれる」「生と死をあきらめれば、不平はなくなり、平和な心を得る」・・・
達観に近い言葉が並んでいる。「満開だけが花、満月だけが月ではない」「頼る人にならない。頼られる人にもならない」などという何気ない一文にも、齢を重ねた含蓄がある。
「影響を受けて、ただ真似るのは横着な人生。自分はどう考えるのか、手探りで求める」という言葉は、篠田さんの作家人生にもつながる。
若い頃には結核も経験した。100歳まで生きるということは想定外だった。「長生きの秘訣」についても書かれているが、「私にはわかりません」が結論だ。本書からくみ取るべきは、長生きの健康法ではなく、自分なりに意味のある人生を送るにはどんな心構えが必要かということのように思われる。本書の締めくくりの言葉は、「天地自然にその身を委ねて、後世に希いを託す」だ。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?