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鉄道ファンには「駅鉄」もいた!

あの駅の姿には、わけがある

 鉄道ファンには、「乗り鉄」、「撮り鉄」などさまざまなタイプがいるが、本書『あの駅の姿には、わけがある』(交通新聞社)の著者、杉崎行恭さんは「駅鉄」とでも言うべきだろうか。

駅舎を取材・研究

 鉄道史や駅舎をテーマにした取材や研究をするカメラマン・ライターで、著書に駅の構造と歴史をまとめた『駅舎』(みずうみ書房)、駅舎ベスト100を選んだ『日本の駅舎』(JTBパブリッシング)などがある。

 本書は路線別に特徴のある駅舎を紹介するスタイルを取っている。路線別にある共通点が浮かび上がるところもあるが、改築されモダンな駅舎になっているところもある。目についた駅舎をいくつか取り上げよう。

 北海道では函館本線の大沼公園駅がリゾート駅らしいたたずまいだ。柔らかなラインを持つ三角ファサードの左右対称建築で、絵本に登場するような洋館駅舎だ。

 竣工は昭和3年(1928)で、国立公園選定をめざす機運の中で建てられたという。しかし、昭和4年には駒ヶ岳が大噴火、駅舎は難を逃れたが、国立公園の選定には漏れ、結局、戦後の昭和33年(1958)国定公園に指定された。

 北海道新幹線が近くの新函館北斗駅まで開通したので、足を伸ばすといいだろう。ちなみに、青函連絡船があった頃、北海道の玄関口だった函館駅は、平成15年(2003)にチタンで覆われた駅舎に改築された。船をモチーフにしたモダンなデザインだ。

 東北では戦前と戦後の駅舎が共存する津軽鉄道を紹介している。近くで生まれた太宰治は小説「津軽」のなかで、芦野公園駅にふれている。その旧駅舎は喫茶店「駅舎」として利用されている。このほかにも都市郊外の文化住宅風の駅舎がいくつか残っているという。

 関東では「関東の三大いい駅舎私鉄」と杉崎さんが呼んでいる、上信電鉄、小湊鐵道、秩父鉄道などを取り上げている。

 JRでも発祥が私鉄の駅にはユニークな駅舎が少なくない。青梅駅は商店街や食堂もあった青梅鉄道の本社駅だった。大正13年(1924)建築のモダンなビルディングだ。

 青梅線の終点、奥多摩駅はヨーロッパ調のロッジスタイルで異彩を放つ。太平洋戦争当時の建築だが、当時の奥多摩電気鉄道が将来の観光を見越して建築したのでは、と杉崎さんは推測する。

明治の駅舎残るJR中央本線

 中部ではJR中央本線に明治建築の駅舎がいくつも残っている。塩尻がひとつ目の洗馬(せば)駅は明治42年(1909)の木造駅舎。贄川駅、奈良井駅、藪原駅、宮ノ越駅なども明治建築。これほど密集しているのも珍しいと杉崎さんも驚いている。

 東海では天竜浜名湖鉄道を「バラエティに富んだ昭和駅舎の見本市」、北陸では富山地方鉄道を「駅舎が雄弁に物語る6電鉄大合併の歴史」と紹介している。

 ほかに、近畿ではJR関西本線・非電化区間、桜井線、和歌山線。中国・四国ではJR山陰本線、芸備線、伊予鉄道。九州ではJR日豊本線、肥薩線を取り上げている。

 古い木造駅舎だけでなく、戦後復興期に建てられた片流れ屋根の駅舎(中央線上諏訪駅)、昭和30年(1955)に発足した国鉄工事局が手がけたモダンな駅舎(函館本線深川駅、内房線木更津駅)などにも目配りしている。

 「鉄ちゃん」の評者は、どちらかと言うと、大きなターミナル駅が好きだ。電車がひっきりなしに出入りするさまを眺めるのが楽しいからだ。

 JR発足後、駅舎建築にも各社のカラーが出るようになった。新しい京都駅、大阪駅に見られるJR西日本の「巨艦大砲主義」とでも呼びたくなるような巨大駅舎は、新しい広島駅にも踏襲され、なんと広島電鉄の路面電車が駅の2階に乗り入れるという。

 またJR東日本の「駅ナカ」開発はますます進み、商業主義化が加速している。後世の「駅鉄」ファンは、平成の駅舎をどう評価するだろうか。

  • 書名 あの駅の姿には、わけがある
  • サブタイトル路線別に探る、駅舎の謎
  • 監修・編集・著者名杉崎行恭 著
  • 出版社名交通新聞社
  • 出版年月日2019年8月20日
  • 定価本体800円+税
  • 判型・ページ数新書判・263ページ
  • ISBN9784330002194
 

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