言われてみれば当然だが、確かにこういう問題があるに違いない―――本書のタイトル『「在日」の相続法 その理論と実務』(日本加除出版)を見てそう思った。
朝鮮半島にルーツがある人が、長く日本に住んでいて亡くなった。遺産をどう継承するか。日本の法律に沿って、ということになるのか、本国の法律か。「在日」の場合、さらに複雑な問題がありそうだ。そのあたりを韓国や北朝鮮の法律まで視野に入れて詳細に手引きしたのが本書だ。700ページ近い大冊になっている。
著者の趙慶済さんは1950年生まれ。早稲田大学政経学部卒。司法書士のかたわら、京都大学法学部の大学院でも学び、立命館大学で非常勤講師、日本司法書士会連合会(日司連)の「外国人住民票」検討委員会委員長なども務めた。これまでに単著で『「在日」の国際家族法とその本国法を考える』(日本加除出版)、共著に『「在日」の家族法Q&A第3版』(日本評論社)などがある。著書や論文の中には、「西山慶一」の名で発表しているものもある。
本書は、「序章 在日韓国・朝鮮人とは誰なのか-国籍・在留資格の視点から」「第1章 在日韓国・朝鮮人の相続関係に適用すべき法」「第2章 韓国家族法の概要とその適用」「第3章 北朝鮮家族法の概要とその適用」「第4章 在日韓国・朝鮮人の身分変動に関する記録と身分登録簿」「終章 在日韓国・朝鮮人の相続、 その相続を証する情報」に分かれている。この構成をざっと見ただけで「在日」が法的にも引き裂かれ、単純な存在ではないことに気が付くだろう。
ちなみに「序章」では、「日本植民地統治下の国籍」「韓国国籍法の変遷とその概要」「北朝鮮国籍法の変遷とその概要」「日本の公簿上の国籍欄の表記」「在留資格をめぐる法制の変遷とその概要」と続く。
本書によれば、2017年末現在の在留外国人は、「中国」が約74万人でトップ。続いて「韓国・朝鮮人」の約48万3千人。その中で日本の敗戦前後から継続して日本に居住している人やその直系卑属は約32万2千人にのぼる。
ニューカマーが多数を占めるであろう「中国」に比べると、「韓国・朝鮮人」の場合、はるかに複雑な過去を背負う人が多いということが推測できる。ファミリーの中でもおそらく国籍がさまざまに入り組んでいるはず。その場合、相続はどうなるのか。そこに離婚や再婚、未入籍、嫡出、非嫡出、遺言などの諸事情が入り組む場合を考えると、頭がこんがらかってくる。
著者自身、「取り扱う法分野の広さと収集した膨大な資料が、私を圧倒し、かつ、苛んだ。執筆からの約3年間、階段を上がっているのだろうか、頂上に果たして辿りつけられるのだろうか、そんな感覚に何度も襲われた」と振り返っている。
本書では多数の判例や、「重婚」「相続放棄」などについての具体例も紹介されているが、韓国と北朝鮮では異なる面があるようだ。司法書士としてこうしたケースを扱うのは、相当の経験が必要だなということがよくわかる。
出版社のHPには本書について多数の関係者の推薦文が掲載されている。その1人、姜尚中さんは「本書は、二つの分断国家と旧宗主国・日本にまたがる『在日韓国・朝鮮人』の相続法の理論と実際を、国籍法の変遷と在留資格、さらにはその国籍の帰属する国家の家族法や相続準拠法に言及しつつ包括的に論じた長年の研鑽の総結集である。移民社会に準ずる多国籍・多民族社会へと移行しつつある日本の現在と未来を考える上で必須のバイブル的なテキストとして読み継がれていくに違いない」と推奨している。すでに2刷になっている。
いまや日本には、多めに見ると、約400万人の「移民」がいるという。定住し、結婚する人も増えている。将来的には相続の問題も表面化するだろう。姜さんが言うように、本書はその一つの指針ともなりそうだ。 本欄では関連で、『詳解 相続法』(弘文堂)、『ふたつの日本――「移民国家」の建前と現実』 (講談社現代新書)なども紹介している。
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