動画配信で世界1位の企業、NETFLIX(ネットフリックス)。有料会員1億4000万人、コンテンツ投資額年間1兆4000億円の巨大企業に成長し、GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)に次ぐネット業界の勝ち組とされている。
世界で「最も価値のあるエンターテインメント企業」の座をめぐり、ウォルト・ディズニーと競い合っているが、創業は1997年とまだ若い企業だ。しかもスタートは郵便によるDVDレンタル事業だった。いかにして現在の地位を築いたのか、その経営の秘訣を本書『NETFLIX コンテンツ帝国の野望』(新潮社)が明かしている。
著者のジーナ・キーティングはフリーの経済ジャーナリスト。米UPI通信、米ロイター通信の記者としてメディア業界を取材してきた。ロイターのロサンゼルス支局にいた頃、創業まもないネットフリックスが生き残れるとは思っていなかった、と書いている。
ビデオレンタル業界ではブロックバスターが世界最大手として君臨、独自のオンラインレンタルサービスを立ち上げる準備に入っていた。またアマゾンも同様の準備を進めていた。
二人の共同創業者、リード・ヘイスティングスとマーク・ランドルフについての記述も興味深い。ヘイスティングスは取材を拒否、現役員・社員に取材協力の許可を与えなかったが、著者は記者時代に20回以上も単独インタビューしていたので、必要な情報はあらかた入手していたという。
一方のランドルフはすでにネットフリックスを去っており、取材に協力した。ヘイスティングスが『アポロ13号』のレンタルビデオを返し忘れて40ドルもの延滞料金を支払う羽目になり、ビジネスモデルをひらめいたという創業物語は、まったくのデタラメだと証言している。二人でDVDを郵送して実際にヘイスティングスの自宅に届いたのを確認したのが、本当の創業物語だという。それまで二人ともDVDに触れたことがなかった。VHSビデオが主流の時代だったのである。
創業時にはランドルフが率いる家族的職場だったが、ヘイスティングスが競争至上主義のスポーツチームのような職場へと変貌させた。キャッシュフローが深刻になり、資金調達に成功したヘイスティングスが主導権を握り、ランドルフはやがてネットフリックスを去る。
同社の競争文化についてウォールストリート・ジャーナルが書いた記事を紹介している。
「ここでは直言と透明性が何にも増して美徳とされる文化がある。問題社員を解雇すべきかどうかをめぐって公の場で活発に議論が交わされる。それは一種の儀式であり、ありふれた光景でもある」
2007年に動画配信サービスを開始、09年に会員数1000万人を突破、11年に海外進出、16年に中国を除く190カ国に進出、17年に会員数1億人を突破、19年にオリジナル作品『ROME/ローマ』がアカデミー賞を受賞と快進撃を続けるネットフリックス。
著者はエンターテインメント業界が同社を過少評価していたことが成功の要因だと見ている。たいした影響はないと思い、破格の安い値段で配信権を与えていた。気づいた時には巨人となっていた。そして「トロイの木馬」にたとえている。
また、映画スタジオ大手を傘下に持つタイムワーナーのCEOは、ネットフリックスを「アルバニア軍」や「200ポンドのチンパンジー」にたとえ見下す発言をしていた。しかし、オリジナル作品がアカデミー賞を受賞する制作能力を持つようになった。
日本ではあまり存在感がなかったネットフリックスだが、北海道テレビ放送(HTB)に出資して制作した「チャンネルはそのまま!」を見たいがために評者は今年(19年)、ネットフリックスの顧客となった。伝説のAV監督村西とおるさんをモデルにしたNetflixオリジナルシリーズ『全裸監督』(全8話)も19年8月8日から世界190カ国で同時配信。さまざまなメディアで話題になっている。
本書のアメリカでの出版は12年。日本での刊行に際し、「日本語版特別寄稿 史上初のグローバルインターネットテレビ」が21ページ収録され、その後の同社をめぐる状況を補足している。いまや巨人となった同社打倒を掲げ、アップルなどが追撃を始めたのだ。
評者はネットフリックス、アマゾンプライム、ユーネクスト、GYAO!と4社も定額映像配信サービスを契約しているため、ニュース以外に地上波テレビを見る機会はほとんどなくなってしまった。見たい映画やテレビ番組はネット経由で山ほどあるから、地上波テレビのバラエティーやドラマには手が伸びないのである。
ヘイスティングスは地上波テレビの時代は2030年に終わりを迎え、それ以降はインターネットテレビの時代が100年以上続くという大胆な予測をしている。
わずか8人の創業チームが始めた事業がこれほどの成功を収めるとは誰も予想していなかっただろう。訳者の牧野洋さんは「中年サラリーマンに起業の夢を与える」と題したあとがきを寄せている。「元サラリーマンだからこそそれまでのビジネス経験をフルに生かし、学生スタートアップとは違う価値を創出できる」と。
本欄で紹介した『テレビが映し出した平成という時代』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)でも、ネットフリックスが北海道テレビ放送に出資して制作した「チャンネルはそのまま!」について、その意義に言及している。
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