読むべき本、見逃していない?

昭和天皇も「イヤな記憶」に悩んだ・・・

  • 書名 なぜイヤな記憶は消えないのか
  • 監修・編集・著者名榎本博明 著
  • 出版社名株式会社KADOKAWA
  • 出版年月日2019年6月 8日
  • 定価本体840円+税
  • 判型・ページ数新書判・216ページ
  • ISBN9784040822518

 タイトルを見て、全くその通りだと思う人は多いだろう。『なぜイヤな記憶は消えないのか』(角川新書)。たしかに嫌な記憶はしつこい。夜中にうなされて目が覚めたりすることもある。汗でぐっしょり、なんてことも。本書はそのメカニズムと上手な消し方を教えてくれる。

「人は誰でも自分の物語を生きている」

 著者の榎本博明さんは1955年生まれ。東大教育学部の心理学科、東京都立大学大学院心理学専攻博士課程で学んだ心理学者だ。大阪大学人間科学部助教授、名城大学人間学部教授などを経て現在はMP人間科学研究所代表。『「過剰反応」社会の悪夢』(角川新書)、『モチベーションの新法則』(日経文庫 )、『ほめると子どもはダメになる』(新潮新書 )など多数の著書がある。

 人生を、後悔だらけだと振り返る人もおれば、まあ満足だったと肯定する人もいる。そのカギを握っているのが記憶だという。「人生は記憶である、といってもよいくらいに、私たちの人生は記憶に依存している」と著者は強調する。確かに楽天的な人は嫌なことがあっても気分転換したり、忘れたりしやすい。逆に悲観的な人はマイナスの記憶にとりつかれやすい、ということは誰でも思い当たる。

 榎本さんは20年ほど前から、人生の良しあしはその人の記憶の中にしか存在しないのではないかと考えて研究を続けてきた。「人は誰でも自分の物語を生きている」という前提のもと、心の中で眠っている自伝的記憶を引き出す自己物語法という面接法を開発、いくつかの学会で発表してきた。本書はそうした科学的・学術的な成果をベースに、人生を前向きに生きるためのヒントを提示している。

学校の勉強とも共通する

 本書は6章に分かれている。多くの読者のためになりそうなのは4章の「前向きになるための記憶健康法」だ。「心の中に刻まれている言葉を書き換える」「ものごとの受け止め方をタフにする方法」「ポジティブな記憶でネガティブな気分を緩和する」「落ち込みやすい人は、記憶とのつきあい方を間違えている」など、示唆的な話が並ぶ。いつまでも嫌な記憶から逃れられないと悩んでいる人は、この章を熟読するといいかもしれない。

 著者は「前向きに生きている人はネガティブな出来事からもポジティブな意味を読み取ろうとする心理傾向をもつ」と書いている。この指摘はまさにその通り。大変なトラブル、失敗などの後で単に自分を責めるだけの人と、そこから教訓を掴み取り、次のステージに生かそうという人の違いを言い当てている。

 このあたりは学校の勉強とも共通するかもしれない。問題が解けないことが続くと、自分が馬鹿ではないかと落ち込んでしまう。しかし、なぜ解けなかったかをフォローし、次に同じ問題が出たときは必ず解けるような備えをする人は、自信を回復する。人生はそういうことの連続なので、ネガティブな出来事こそ自分を成長させてくれる・・・。

個人の記憶が「集合的な記憶」にとりこまれる

 理論的にはそういうことになるが、実際にはなかなか難しい。最近、本欄で紹介した『昭和天皇 最後の侍従日記』(文春新書)には昭和天皇が晩年、「長く生きても仕方がない。辛いことをみたりきいたりすることが多くなるばかり。兄弟など近親者の不幸にあい、戦争責任のことをいわれる」と侍従にこぼしたことが出ていた。侍従は、「個人的には色々おつらいこともおありでしょうが、国のため国民のためにお立場上、今の状態を少しでも長くお続けいただきたい旨申し上げた」という。昭和の激動を生きた天皇もネガティブな記憶にとらわれ、苦しんでいた様子がうかがえる。

 個人の記憶は本来、個人的なものだった。ところが、ネット社会になって近年、新たにややこしいことも浮上している。SNSなどでのちょっとしたやりとりが思いがけず全世界に公開され、簡単には消すことができない。見知らぬ第三者からあれこれ言われる。刑事事件の場合、なお厄介だ。最終的に不起訴になるような事案でも、ネットには好き放題に書きたてられ、それが検索で延々と残る。「忘れられる権利」を主張しても、なかなか認めてもらえない。

 一個人の記憶が個人のレベルを超えて、「集合的な記憶」の中でいつまでも生き続ける――私たちは一段とタフにならないと生きていけない時代に暮らしている。

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