登山が女性の間でブームだという。「山ガール」は聞いたことがあるが、一部には「苔ガール」がいるらしい。
本書『苔登山』(岩波書店)は、山のコケの美しさ、みずみずしさについて書いた本だ。著者の大石善隆さんは、福井県立大学学術教養センター准教授でコケの生物学の専門家。お寺の庭のコケを紹介した『苔三昧 モコモコ・うるうる・寺めぐり』(岩波書店)に続く第2弾だ。
第1部「実践篇」では、北海道・屈斜路湖、青森・奥入瀬渓谷、東京・奥多摩、鹿児島・屋久島など全国11カ所のコケの名所を紹介している。番外篇として東京・高尾山も。身近な山でもコケの観察はできる。
さらに低山・山地帯、亜高山帯、高山帯、湿地帯と標高に応じて、代表的な山のコケ約30種類をカラー写真で取り上げているので、コケの図鑑としても使える。
第2部「解説篇」によると、山のコケが標高とともに大きく変化するのは、コケの生き残り戦略そのものが標高によって異なるからだという。標高が100メートル高くなると気温は0.6度下がる。標高が1000メートル違うとコケも別世界のような展開を見せる。
コケによって理想的な環境は1年中霧がかかるようなところにある「雲霧林」だ。霧の水滴には窒素などの栄養分が豊富に含まれているので、コケの生長には好都合だ。屋久島の亜高山帯の一部などで見られるという。
尾瀬ケ原など高層湿原にはミズゴケ類が多い。植物の遺骸が分解されない貧栄養の環境でも育つことができるのがミズゴケ類だ。その下には泥炭が形成される。大石さんは本来、二酸化炭素の基になる炭素が地中にとどめられるので、地球温暖化を食い止めるのにミズゴケ湿原は貢献しているという。日本ではそれほど多くないが、ユーラシア大陸北部には広大に広がっている。大気中にある二酸化炭素と同量の炭素がミズゴケ湿原に蓄積されているというから「ミズゴケは地球を守っている」のかもしれない。
高山帯のコケはきれいだと思うかもしれない。しかし、北・南アルプスと八ヶ岳のコケに含まれる大気汚染物質を調べたところ、発がん性のある有機化合物が高濃度で含まれていることが分かったという。松本市など山麓の都市よりも遠く離れた日本海側の富山市などのコケに含まれるものに似た特徴があることから、大石さんは中国からの大気汚染物質の影響と考えている。高山帯では高い樹木がないので、汚染物質が直接コケに吹きかけられ、取り込まれるからだ。
本書は「苔登山」のガイドブックでもあり、コケの図鑑でもあり、コケを通して環境問題を考えるテキストにもなっている。日本は世界で最もコケが豊かな国だそうだが、一部の愛好家や業者の採取によって美しい景色が消えつつあるという。温度や湿度が変わると生育できない山のコケ。決して取ったり、踏み荒らしたりしないよう注意して見守りたい存在だ。
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