世のなかには様々な「生協」がある。素人には違いがわからない。本書『日本一要求の多い消費者たち――非常識を常識に変え続ける生活クラブのビジョン』(ダイヤモンド社)はその中でも特にユニークな「生活クラブ生活協同組合」を取り上げている。
タイトルにもあるように、ちょっとうるさ型の利用者が多いことで知られる生協だ。評者が職場で周囲の女性に聞いてみたら、たちどころに何人もから「あそこは主義主張がある」と言うコメントが返ってきた。それほど有名な「こだわり生協」なのだ。
1968年の設立。首都圏を中心に北海道から兵庫県まで33の単位生協(単協)があり、組合員は2018年11月に40万人(40万世帯)を超えた。ここ数年、年率3~4%で増加している。これらの単協は「生活クラブ事業連合生活協同組合連合会」を構成し、東京・新宿に本部がある。関連会社として、運送会社から、牛乳工場、採卵養鶏場、自然エネルギー発電所、電力会社まで持っており、組合員が設立した数多くの社会福祉法人やNPO法人もあるそうだ。
日本には100万人以上の組合員を抱える生協や事業連合がいくつもあって、「生活クラブ」は、規模としては特筆されるほどではない。874億円という年間供給高(売上高)もとりわけ多いとはいえない。ただし、際立つのは組合員ひとりあたりの月間利用額が2万3000円もあり、日本の生活協同組合の平均の2倍になることだという。
さらに驚くのは、食品を中心とした年間約1万8500点にのぼる取扱アイテムのほとんどがオリジナル商品だということ。無農薬や減農薬、食品添加物の不使用または最低限の使用にこだわっている。
この生協の組合員は単なる消費者ではない。しばしば生産者のもとを訪れ、農場や工場を見学する。生産者が組合員の集まりに出て説明する「生産者交流会」もひんぱんに行われている。消費者と生産者の双方向のつながりや交流が緊密だ。こうした「こだわり」を支持しているのが、40万人の会員たちというわけだ。
本書は「第1章 国産鶏種『はりま』にかけた思い――丹精國鶏の誕生」、「第2章 はじまりはびん牛乳だった――生活クラブの原点と発展」、「第3章 そこまでやらなきゃダメですか?――国産と安心・安全はゆずれない」、「第4章 消費者と生産者の立場を超えて――共感と信頼が築く対等な関係」、「第5章 必要な仕事は自分たちでつくる――女性たちがめざしたもうひとつの働くかたち」、「第6章 ここから新常識がはじまる――エネルギーと地域福祉がつくる持続可能な社会」、「終章 自立した地域社会をめざして」に分かれている。この見出しを見ただけで、「こだわり」がひしひしと伝わる。
内容は多岐にわたっているが、一つ紹介すると、「安心・安全なお弁当がほしい」ということで、会員たちが弁当店を始めた話。東京・府中市の弁当店「碗もあ」。調理場で働く女性たちはいずれも組合員だ。コンビニ弁当などは、どんな素材を使っているのか、何となく不安になるが、「碗もあ」の食材は「安心・安全」。日替わり弁当が税込みで680円だというから、近くにあったら毎日買いたくなる。
戦後の大衆消費社会では物があふれるようになり、一部の消費者は「たしかさ」を求めるようになった。その欲求にいち早くこたえたのが、消費者テストで名を挙げた「暮しの手帖」だろう。同じような路線では「通販生活」などが思い浮かぶ。「生活クラブ」も広い意味で似た路線ではないかと感じた。「食」を中心に「持続可能な社会」に重点を置いているという点では、さらに徹底している。
本書の著者の小澤祥司さんは1956年生まれ。東大農学部卒の環境・科学ジャーナリスト。生物多様性保全、自然エネルギー、環境エネルギー政策、持続可能な地域社会、環境保全活動や企業の社会的責任(CSR)などに関して多数の著書がある。福島県飯舘村の後方支援活動、汚染実態調査にも取り組んでいる。
本欄でかつて紹介した『えっ! そうなの?! 私たちを包み込む化学物質』(コロナ社)では、この70年ほどの間に人類の数十万年の歴史の中で経験したことがない「化学物質時代」に突入していることが注意喚起されていた。「安心・安全」の大切さに改めて思い至る。本欄では、『OK食品 NG食品 どちらを食べますか?』(WAVE出版)なども紹介している。
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