ラジオやテレビの番組で、自分の投稿を読んでもらうことを生きがいにする「ハガキ職人」と呼ばれる人たちがいる。本書『笑いのカイブツ』(文春文庫)は、その中でも「伝説のハガキ職人」と言われたツチヤタカユキさんが書いた自伝的私小説だ。
すべてがネタを作るために費やされた青春の日々を圧倒的な熱量で描いた作品だ。「どうせ27歳で死んでいたはずの人間」という思いで、感情をストレートにぶつけた文章。最初はネットで配信され、7つの出版社から書籍化のオファーがあった。本になるとAmazon書籍ランキングで4位になり、漫画化もされた。読者をひきつける不思議な魅力がある作品が文庫化された。
貧しい母子家庭に育った「僕」は、15歳の時にNHKの『ケータイ大喜利』への投稿を始める。1回の放送中に30万もの投稿があり、採用されるのは30本ほどだから、倍率は1万倍。書いても書いても読まれない「拷問みたいな番組だった」と書いている。
最高段位の「レジェンド」になることを目指して、一日中、「ボケ」を考えた。一日、100個、500個とノルマを上げた。19歳の時に初めて投稿が読まれた。
アルバイトも辞め、生活のすべてを大喜利の投稿に捧げた。ノルマは1000個、2000個と増え、自分が人間じゃないと感じるようになった21歳のある日、念願の「レジェンド」に昇格した。
その後、吉本の劇場作家になり、すぐに辞めたことや、さまざまなバイトをしながら、金目当ての「ハガキ職人」をした日々が綴られている。
いつしか頭の中には「カイブツ」という名のもう一人の自分が住み着いていた。
「僕の頭の中を、全部書き出そう。この絶望も、苦しみも、すべて、残さず、食べ尽くしてやる。このカイブツのことを遺書に書き記そう」
そんな思いで書いた作品だ。笑いの現場のことも書かれているが、圧倒的に多いのがアルバイトのことだ。ホストクラブ、コールセンター、フランス料理店のウエイター。大阪から上京した時は、ファストフードでバイトをしながら、「ゴミ箱に廃棄処分された、ハンバーガーを拾い食って生きていた」。
著者は現在、複数の芸人の構成作家をしながら、私小説家、漫画原作者、詩人として活動している。
10年間で書いたコントや漫才のネタは2000本を超え、タワーのように積みあがったネタ帳は身長を追い越していたという。
創作にはある種の「狂気」が必要だ。笑いのネタ作りに青春を捧げた著者の驚異的なエネルギーを支えた陰には母の愛もあった。昨年(2018年)、小説『オカンといっしょ』を出した。
ちなみに「ハガキ職人」と言っても、実際はメールで投稿するそうだ。ハガキだったらアルバイト代がすぐに消えてしまう。昔、ハガキをせっせと出した評者の世代とは投稿事情も変わったものである。
当サイトご覧の皆様!
おすすめの本を教えてください。
本のリクエスト承ります!
広告掲載をお考えの皆様!
BOOKウォッチで
「ホン」「モノ」「コト」の
PRしてみませんか?