人気マンガの「キングダム」と「ゴールデンカムイ」は似ているところが多い。集英社の「週刊ヤングジャンプ」に連載されて大人気。アニメ化もされ、ともに手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞した。06年から連載がスタートした「キングダム」は単行本で累計約4000万部といわれ、「ゴールデンカムイ」は14年スタートだが、すでに900万部を超えているという。
本書『アイヌ文化で読み解く「ゴールデンカムイ」』 (集英社新書)は、漫画監修者の中川裕・千葉大学文学部教授による解説書だ。
「ゴールデンカムイ」を簡単におさらいしておこう。時代は日露戦争が終わって間もないころ。舞台になっているのは北海道だ。戦争からの帰還兵・杉元佐一は北海道で一獲千金を夢見て砂金採りに明け暮れていた。そんなときアイヌの埋蔵金伝説を耳にする。和人に対抗するための軍資金としてアイヌが蓄えていた莫大な量の砂金が一人の男に奪われ、今も行方知らずだというのだ。この話に、網走監獄を脱獄した死刑囚や、アイヌの人々、さらに幕末の元新選組などが絡んで物語が展開する。ミステリーと歴史ロマンが折り重なり、アクション、そして狩猟やグルメ、伝承なども随所に盛り込まれている。
とくに重要な役割をしているのがアイヌだ。登場人物も多い。連載開始前に、マンガの作者の野田サトルさんと担当の編集者が、アイヌ文化研究者の中川さんのところに監修を頼みに来た。第一話の原稿がすでにできていた。それを読んで中川さんは「これはいける!」と直感したという。綿密に取材を重ねて描かれたと思われる狩人のいでたちと正確な描写力、読者をぐいぐい引き込んでいく物語作りに大きな可能性を感じた。
本書は、最初に「ゴールデンカムイ」の主要キャラクターたちが絵入りで示され、「あらすじ」も紹介されている。そのあと「第一章 カムイとアイヌ」「第二章 アイヌの先祖はどこから来たか?」などと順に説明が続く。
中川さんによると、アイヌがこれほど大きな存在として作品の中に登場するのは異例だという。それだけに監修者としても力が入ったようだ。この作品を読んだ中川さんの身近なところにいるアイヌの人たちはみな好意的な評価だという。
日露戦争直後のアイヌの人口は約1万8000人。それが2017年の「北海道アイヌ生活実態調査」によると約1万3000人。アンケート調査なので必ずしも正確ではないが減っている。さらに100年前との大きな違いは、アイヌ語を母語として話せる人が「もういない」ことだ。1955年生まれの中川さんがアイヌ語を学び始めたころは、まだ話せるお年寄りがいたという。
だが、このまま消えていく、ということでもないようだ。中川さんはハワイの例を参照している。ハワイ語を母語として話せる人はほとんどいなくなったが、ハワイ大学を中心に復興運動が行われ、ハワイ島では幼稚園から大学までハワイ語の授業が行われているそうだ。
同じように北海道でも様々な取り組みが進んでいる。中心になりそうなのが、2020年に北海道白老町に開館する国立アイヌ民族博物館だ。「国立」というところがすごい。すべてアイヌ語で表示が行われる予定。様々な事業も計画されている。アイヌ民族を「先住民族」と初めて明記したアイヌ新法も2019年4月19日、参院本会議で成立した。「近代化の過程で多くのアイヌの人々が苦難を受けたという歴史的事実を厳粛に受け止める」ことなどを盛り込んだ付帯決議が、全会一致で採択されている。
「ゴールデンカムイ」は期せずしてアイヌを巡る大きな動きにも連動した形になっている。これからますます注目されるだろう。 「キングダム」はすでに実写映画化されているので、「ゴールデンカムイ」も映画化されれば両者の歩調がそろう。
ところで、「カムイ」と言えば、どうしても白土三平の『カムイ伝』が思い浮かぶ。友人に大ファンがいるので聞いたら、白土さんの『カムイ伝』は元々アイヌを主人公にする予定だったという。しかし、機が熟さず、やむなく時代と舞台を変えたのだとか。登場人物にもアイヌ的な名前の人物が散見されるという。
本欄では、『地図でみるアイヌの歴史』(明石書店)、『アイヌ人物誌』(青土社)、『つくられたエミシ』(同成社)、『千島列島の山を目指して――知床、千島、カムチャッカ紀行』(牧歌舎)なども紹介している。
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