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平成の札幌を舞台にしたビルドゥングスロマン

死にがいを求めて生きているの

 『桐島、部活やめるってよ』で鮮烈にデビューし、2013年に『何者』で直木賞を受賞した朝井リョウさんの新作『死にがいを求めて生きているの』(中央公論新社)が出た。

 中央公論新社の文芸誌「小説BOC」の創刊にあたって、朝井リョウさん、伊坂幸太郎さん、薬丸岳さんら8組9人の作家が、ある「ルール」のもと、古代から未来までの日本を舞台に二つの一族が対立する歴史を描いた競作企画の一つ。朝井さんは平成時代を受け持った。だが、そんな仕掛けを意識しなくても、読者はこの物語にはまってしまうだろう。

 22歳の看護師、白井友里子の視点から物語は始まる。大学4年生の南水智也が重度の脳挫傷による意識不明の状態で札幌の病院に入院してきた。植物状態が続く智也を親友の堀北雄介はひんぱんに見舞い、献身的に見守る。毎日の繰り返しに飽きた友里子には、堀北がまぶしく映った。

 南水智也、堀北雄介の二人は北海道で生まれ、幼なじみとして育った。二人が小学生の頃、同じクラスに転校してきた前田一洋の視点から物語はつづく。一洋はクラスで浮かないようにうまく立ち回る。その後一洋は思いがけない形で登場する。

 彼らの中学生時代は同級生の女子、坂本亜矢奈の眼で描かれる。テストの成績上位者の掲示をやめることに抗議する雄介を亜矢奈は怖いと思った。同じ水泳部の智也には好意を感じる亜矢奈だった。学園ラブコメのような展開になるかと思うと読者は裏切られる。

北大生の青春

 その後、智也と雄介は北海道大学に進学、青春を謳歌する。北大で彼らと出会った安藤与志樹は、野外で音楽と酒を楽しみ、音楽に主張を乗せるレイブにのめり込む。学内では寮の自治問題が浮上していた。北大生をめぐる描写が圧巻だ。

 競作企画のルール、海族と山族との対決に起因するといわれる海山伝説。二人はどうかかわっているのか。伝説の秘密から破局へ向かって物語は動き出す。

 二人の主人公を中心にした平成時代の若者の心情、生態の描写と海山伝説をめぐるテーマがパズルのようにはまる。単純な青春物語でもなければ、妙な伝奇小説でもない。ぎりぎりのバランスで両者が成立している。多視点を生かした見事な小説の構成に読者は舌を巻くだろう。札幌を舞台にしたビルドゥングスロマン(教養小説)として評者は楽しんだ。

 札幌を舞台にした青春小説として、本欄では『北海タイムス物語』(新潮社)を紹介している。

  • 書名 死にがいを求めて生きているの
  • 監修・編集・著者名朝井リョウ 著
  • 出版社名中央公論新社
  • 出版年月日2019年3月10日
  • 定価本体1600円+税
  • 判型・ページ数四六判・473ページ
  • ISBN9784120051715
 

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