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「日本最古」の図書館は? 「司書」のルーツは? 「音博士」とは?

図書館の日本史

 人に歴史ありといわれるが、図書館にも歴史がある。本書『図書館の日本史』(勉誠出版)は図書館の来歴を時代をさかのぼりながら、わかりやすく記述している。あまり見かけないタイプの本だと思ったら、「古代から現代まで、日本の図書館の歴史をやさしく読み解く、はじめての概説書」だという。

法隆寺で「書屋」が見つかった

 タイトルがなかなか上手だ。「図書館の歴史」だとぼんやりしてしまうが、「日本史」だと、くっきりする。昨今の日本史ブームの中にすっぽりはまる。

 気になるのは、日本最古の図書館はどこかということだ。本書は「聖徳太子の図書館」を候補に挙げる。もちろんその存在はとくに歴史書に記録されてはいない。しかしながら、仏教をもとに国づくりを急ぎ、十七条の憲法などを制定、自らも法華経などの解説書『三経義疏』などを遺したとされる太子はおそらく、膨大な量の文献を読んでいたはず。遣隋使も派遣して直接、中国から書物をとりよせていた。どうしても整理・保管の場所が必要になる。「ここに、わが国の図書館の萌芽がみられないでしょうか」と著者の新藤透・東北福祉大学准教授は推測する。

 聖徳太子と縁が深いのが奈良の法隆寺だ。現存する世界最古の木造建築とされる。金堂の修理をする中で1991年、「書屋」と書かれた文字が、釈迦三尊像の台座の一部から見つかった。「書屋」とは何か。文書や図絵を管理する建物ではないか。この仏像の製作年は621年という説があり、太子の死去の前年だ。単なる書庫か、それとも閲覧もできる図書館だったのか。「想像の域を超えませんが、ロマンを掻き立てます」と新藤さん。

公文書館のルーツ

 ちなみに聖徳太子が著したという『三経義疏』の中の「法華義疏」は、今も宮内庁に保管されている。日本人が書いたとされる現存最古の墨跡。書道史においても重要な史料となっている。評者は展覧会で見たことがあるが、「同時代の中国の書体よりもやや古い」と説明されていたと記憶する。

 古代の中国では、時代によって漢字のスタイルに変遷があった。太子が学んだ漢字のテキストは、隋の時代のものではなかったようだ。「少し古い」というのは当時、大陸から文化がもたらされるのにそれだけ時間がかかっていたということだろう。だからこそ太子は、遣隋使を通して最新の知識を得ようとしたのかもしれないなどと思ったりもした。ときどき一般公開されるようなので、未見の人にはお勧めしたい。

 さて、その後、奈良時代に入ると、本格的な国家管理の図書施設が登場する。今でいう国会図書館や国立公文書館のルーツみたいなものだ。

 中国にならった律令政治。中央集権で行政組織が整備された。その中に「図書寮」という組織があった。これは大宝律令で設置された当時の官僚機構「二官八省」の一つだった。平安時代につくられた辞書『和名抄』では「ふみのつかさ」と読んでいるが、現在では「ずしょりょう」と呼ばれているそうだ。

「書写手」「造紙手」「造墨手」「造筆手」「書司」...

 本書には「図書寮」の詳細が記されている。組織のトップは「図書頭」。補佐が「図書助」。その下に何人かの役人がいるが、面白いのは、「書写手」(20名)、「造紙手」(4名)、「造墨手」(4名)、「造筆手」(10名)などが控えていることだ。紙を漉き、筆をこしらえ、墨を製造する職人たちが含まれている。今でいうコピー文書を手書きでせっせと作るのは「書写手」たちだ。いわば家内工業の世界。こうした熟練職人の技に支えられ、公文書管理を基礎とした統治システムが出来上がっていくさまが推測できる。

 ちなみに同時期に高等教育機関も整備された。「大学」だ。735年、唐から帰国した吉備真備が「大学頭」になる。13歳から16歳の家格の高い俊英たちが集められ学んでいた。ここで面白いのは教授陣。大学博士1名、助教、音博士、書博士、算博士各2名。大学博士や助教は儒教を教えた。音博士は中国語の発音を、書博士は書道、算博士は数学。このほか明法博士が法律、文章博士は歴史と漢文を教えたという。教官や学生がおれば当然、「図書館」も必要とされ整備されたことだろう。遣唐使で中国に行くのだから、中国語の勉強は必須だった。しかし、会話を教える「音博士」がいたとは知らなかった。

 女性職員には「書司(ふみのつかさ)」というのもいたようだ。図書寮の図書を天皇の閲覧に供する係だったとされる。研究者によれば、これが「司書」の語源ではないかという。

 本書は平安時代以降の「文庫」についても、わかりやすく解説している。たいがいの「文庫」は火事で焼けてしまい、蔵書も灰燼に帰してしまったそうだ。冷泉家の文庫など、今日まで生きながらえた文庫はわずかだ。

 こうして「図書館」の歴史をたどることで、日本人がいかにして書物を収集、複写、分類、整理し、独自の文化を醸成したかがわかる。デジタルの時代だからこそ、先人の苦労を今一度思い起こす意味があるだろう。

 本欄では図書館関連で、『挑戦する公共図書館』(日外アソシエーツ)、『公共図書館運営の新たな動向』(勉誠出版)など多数を紹介している。

  • 書名 図書館の日本史
  • 監修・編集・著者名新藤 透 著
  • 出版社名勉誠出版
  • 出版年月日2019年1月17日
  • 定価本体3600円+税
  • 判型・ページ数四六判・400ページ
  • ISBN9784585200673
 

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