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主人公はビットコイン生みの親と同じ名前 仮想通貨採掘するが......

ニムロッド

 上田岳弘さんは本書『ニムロッド』(講談社)で第160回芥川賞を受賞した。「新時代の仮想通貨小説」というキャッチコピーを頼りに読み始めると、意外にリーダブルなことに驚いた。デビュー作「太陽」(2013年、新潮新人賞)をたまたま評者は文芸誌掲載時に読み、ぶっ飛んだからだった。スケールの大きいSFのような作品で骨太な構想力は、当時注目された。

 本書はIT企業でサーバー管理に従事する中本哲史が主人公。彼の日常生活が淡々と綴られる。ある日、中本は社長から、空いているサーバーを活用し仮想通貨の採掘をするよう命じられる。システムサポート部採掘課の課長として、日常業務のかたわらビットコインの採掘に取りかかる。

 小説は会社の先輩「ニムロッド」こと荷室仁からのメールの記述と並行して進む。作家志望の「ニムロッド」は鬱病をわずらい、一時休職後に実家のある名古屋で勤務していた。彼からは「駄目な飛行機コレクション」という過去の飛行機を紹介する内容のメールが定期的に送られてきた。

 一方プライベートでは、外資系証券会社でばりばり働く年上の田久保紀子との交際が進行していく。彼女が「ニムロッド」に関心を抱いた頃、彼の書いた「小説」らしい長文のメールが届くようになる。それは巨大な塔のイメージを描いたものだった。

 このあたりからデビュー作以来の作風がなだれ込み、思弁的な記述が多くなる。これ以上筋を紹介するのはやめよう。

 「週刊現代」(2019年2月9日号)のインタビューに答え、上田さんは主人公・中本哲史の名前はビットコインの生みの親である謎の人物、サトシ・ナカモトから取ったことを明かした上で、仮想通貨はナカモト氏が唱えた「理論」や「哲学」による信頼が支えていることに注目している。

 仮想通貨の採掘作業と田久保紀子との交際、SFのようなイメージが渾然となって小説はエンディングに向かう。この断片が断片として放り出されたような手触りに、読者は戸惑うかもしれないが、それこそが作者の狙いだろう。

作者が反映された登場人物

 「ただごろりと文章があるんだ」と「ニムロッド」は、作中語っている。新人賞で落選を続けるという設定には、作家としての上田さんが反映されている。

 上田さんは1977年、兵庫県生まれ。早稲田大学法学部を卒業後、IT企業の立ち上げに参加、役員を務めている。中本もまた上田さんの分身かもしれない。

 日常生活を営みながらも、哲学し小説を書き続ける。本書は「仮想通貨小説」というより作者の自画像のイメージと理解することもできる。  

  • 書名 ニムロッド
  • 監修・編集・著者名上田岳弘 著
  • 出版社名講談社
  • 出版年月日2019年1月28日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数四六判・136ページ
  • ISBN9784065143476
 

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