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病、死、命をどう考えるかを問う医療ドラマ

最後の医者は雨上がりの空に君を願う

 二宮敦人さんの医療ドラマシリーズは『最後の医者は桜を見上げて君を想う』(2016年)に始まり、続編にあたる本作『最後の医者は雨上がりの空に君を願う』上下巻(以上、TOブックス)が18年に同時刊行された。シリーズ累計25万部を突破し、ニコニコ静画ではコミカライズ版が公開され、映画化企画も進行中という。本シリーズをより深く理解するには第一弾から読むのが望ましいと思われるが、本作から入っても十分楽しめるので順序は問題なさそうだ。

 冒頭、若く容姿端麗な2人の男性医師がイラスト付きで紹介されている。「福原雅和」は、武蔵野七十字病院の副院長だが、院長である父の反感を買い、現在は閑職に追いやられている。患者の命を救うことに執念を燃やす。一方の「桐子修司」は、かつて武蔵野七十字病院で福原の同僚だったが、現在は一人で小さな診療所を営む。患者は死を選ぶ権利がある、が信条。付いた仇名は「死神」。

 本作の上巻は「第一章 とあるチャラ男の死」と「第二章 とある母親の死」、下巻は「第二章 とある母親の死」(上巻の続き)と「第三章 とある医者の死」から成り、上下巻を通して三話収録されている。

 付き合っていた男女がHIVに感染し、その後対極の道を進んでいく。「HIVなんて怖い病気じゃありませんよ」と福原に励まされ、美穂は正しい知識を身に付け治療を受ける。一方の駿太は、病の発覚を恐れ検査さえ受けず、徐々に症状が悪化していく。(「とあるチャラ男の死」)

 福原が小学生の頃、最愛の母が癌で亡くなり、福原は母のように強く優しい人になると誓った。父は、母は死ぬものだと最初から諦めているように見え、父に対する福原の反感は増幅していく。一方の桐子は、小さい頃アレルギーでよく入院していた。医者の言葉を真に受けても裏切られるだけであり、この世界に絶望していたが、入院中の福原の母と出会い、物事の見方が変化していく。(「とある母親の死」)

 認知症を発症した福原の父の主治医に、福原は桐子を選ぶ。「どんな患者であっても、その意思を尊重することで救えると言った医者がいた。そいつに見せてもらいたいのさ。認知症の患者、意思がおぼろでかすんでしまった患者を、どうやって救ってみせるのかをね」「自分の家族にすら、愛情を向けられなかった男がいた。どんなに惨めで哀れなのか。この目で確かめたいんだよ」と、福原は桐子と父の双方に敵対心、復讐心をむき出しにする。

 一方、父の意識は過去に遡る。父の目線から語られることで、福原が一方的に憎悪する父が本当はどんな人物なのかがわかる。父の過去に触れ、認知症の父と真摯に向き合う桐子の信念に触れ、心に渦巻いていた感情が嘘のように吹き飛び、福原は最後、ある行動に出る。(「とある医者の死」)

 「中途半端な知識が一番怖いですよ」という福原の台詞が刺さった。HIV、癌、認知症について、あいまいな情報だけで何となく認識していたのだと反省した。本書は、物語とともに病の正しい知識を提供してくれる。自分や大切な人の病、死、人の命というものを考えさせられた。

 二宮敦人さんは1985年東京都生まれ。一橋大学経済学部卒業。著書に累計20万部を突破した『!(ビックリマーク)』、『18禁日記』、『郵便配達人シリーズ』などがある。

BOOKウォッチ編集部 Yukako)
  • 書名 最後の医者は雨上がりの空に君を願う
  • サブタイトル
  • 監修・編集・著者名二宮 敦人 著
  • 出版社名株式会社TOブックス
  • 出版年月日2018年4月 2日
  • 定価本体540円+税
  • 判型・ページ数文庫版・237ページ
  • ISBN9784864726825
  • 備考上下巻
 

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