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ヤフーから図書館コンサルに転身できたワケ

未来の図書館、はじめます

 実に魅力的なタイトルだ。何か素晴らしい世界が広がっている気がする。『未来の図書館、はじめます』(青弓社)。そこには、いったいどんな夢のある本が並んでいるのだろうとワクワクする。

誰にも負けない「図書館愛」

 著者の岡本真さんは図書館プロデューサー。ちょっと変わった分野のコンサルタント業だ。2009年にアカデミック・リソース・ガイドという会社を創業し、日本各地で図書館などをプロデュースしている。恩納村文化情報センター(沖縄)、気仙沼図書館(宮城)、富山市立図書館本館・TOYAMAキラリ(富山)、瀬戸内市民図書館もみわ広場(岡山)などに、会社もしくは個人で関わってきた。

 かつては自治体の仕事だった図書館づくりに民間の立場で参画する。いわば民活。ときに批判的な眼差しで見られることがあるということは自覚している。だが、図書館づくりにかける情熱は人一倍だ。

 それは、岡本さんが図書館に育てられてきたからだ。高校生のころ、近所にあった横浜市立図書館金沢図書館に入り浸っていた。社会問題を考えるサークルを立ち上げ、雑誌を発行していたからだ。図書館で旧日本軍が使っていた貯油施設について徹底的に調べ上げ、文化祭で発表したところ、新聞にとりあげられ、思いもよらぬ反響があった。これが岡本さんの図書館についての「原体験」になっている。

 大学はICUだったが、ここでも図書館体験が続く。ハイレベルの図書館がキャンパスの中枢にあり、校内のどこに行くにも図書館を通らなければならなかった。

 一般にプロデュース業、コンサルというと、何となくビジネス優先の印象がある。岡本さん自身、そのことを否定しないが、本書から伝わってくるのは、なみなみならぬ「図書館愛」だ。

レファレンス機能にこだわる

 本書は図書館をつくりたい、図書館が欲しい、と思っている人が主たる読者対象だ。具体的には市民団体や地方公務員、地方議員など。すでに著者はそうした人たち多数とやりとりしてきているので、ノウハウが蓄積されている。「第1章 図書館をはじめるための準備」「第2章 図書館整備の背景・課題」「第3章 図書館整備の手法と進め方」という順で、手際よく整理された説明が続く。文章はすっきりしていて、読みやすい。

 岡本さんは元々ヤフーに勤め、「カテゴリー」「検索」「知恵袋」「ランキング」「百科事典」などの企画・設計・運用に従事していた。したがって、膨大な書籍をどう魅力的に分類配置し、検索しやすくするかなど図書館の抱える課題と類似の経験がある。21世紀の「未来図書館」について構想するには、ぴったりの人材だったのかもしれない。

 今や図書館の貸し出し予約はネットで簡単にできる。近所の図書館で、同じ市や区内の図書館の本も入手できるなどネットとの親和性が高い。したがって、図書館に行くのは本を引き取り、返却するときだけ、図書館員とはほとんど話したことがないという利用者が多いのではないか。しかし、岡本さん自身は、図書館のレファレンス機能にこだわっていることを強調している。利用者の疑問や相談に図書館員がこたえるサービスだ。これも、高校生のころ、必死になって調べものをした体験によるものだろう。まさに「三つ子の魂」だ。ここにも「図書館愛」が感じられる。

 本欄では関連で『図書館のこれまでとこれから』(青弓社)、『司書のお仕事――お探しの本は何ですか?』(勉誠出版)、『図書館さんぽ――本のある空間で世界を広げる』(駒草出版)なども紹介している。

  • 書名 未来の図書館、はじめます
  • 監修・編集・著者名岡本 真 著
  • 出版社名青弓社
  • 出版年月日2018年11月 2日
  • 定価本体1800円+税
  • 判型・ページ数四六判・208ページ
  • ISBN9784787200693
 

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