湿原と聞いても、都会に住んでいるとピンとこない。どこにあるの?という感じ。思い浮かぶのは尾瀬とか、釧路の湿原ぐらい。本書『日本湿原紀行 訪ねてみたい41コース』(信濃毎日新聞社)を見て、初めてほかにもたくさんの湿原があることを知った。
本書はそうした全国各地の湿原41か所を、写真や地図付きで紹介したものだ。このほか70か所についても簡単に解説している。北海道から屋久島までの全国を網羅した、ありそうでなかったガイド本だという。著者の日野東さんは1964年生まれのフォトライター。出版社の編集者を経てフリーになり、全国の自然と花をテーマに取材を続けている。
本書をパラパラめくってまず感じたのは、湿原はすばらしい所のようだということ。ほとんど手つかずの自然が残されている。水があり、草があり、鳥や虫が生息している。生き物たちの営みがあって、生態系が維持されている。日本はもともと「豊葦原瑞穂国」――その原風景が湿原だ。実際に行けば、相当リフレッシュできそうだ。美しい掲載写真からそれが実感できる。
湿原が多いのは北海道だ。有名な釧路湿原を含めて8か所が紹介されている。「緩やかな登山道の先で、ひょっこり湿原に抜け出した時の感動は、言葉では言い表せない」と日野さんは書いている。まさにそうだろうと思う。
本州では福島、長野などに多い。評者は群馬県に住んでいたことがあるので、尾瀬に一度は行ってみたいと思ったことがあるが、結構遠いので断念した。日光の戦場ヶ原ぐらいしか知らない。中高年で山登りをする人は少なくないが、湿原巡りのほうが年齢相応で楽しいのではないだろうか。
ところで本書は地方の新聞社が出した全国向けのガイド本だ。東京の新聞社が多数の書籍類を出版しているように、地方を拠点とする新聞社もまたそれぞれ地域性に富んだ出版物を出している。
信濃毎日新聞社の場合、最近では『報道写真集 天皇皇后両陛下と信州 平成の皇室ご一家ふれあいの足跡』、『明治維新の残響 近代化が生んだこの国と地方のかたち (信毎選書)』など平成や明治150年を地元との関わりでとらえなおしたものを刊行している。そのほか『御嶽海 2年目の躍進』、『快挙! 平昌冬季オリンピック金メダル 小平奈緒報道写真集』など地元出身のスポーツ選手を取り上げたものにも事欠かない。
加えて長野は日本アルプスを抱えて景勝に富むからその関係も多い。本書の著者の日野さんは『信州とその周辺 ベストトレッキング』など何冊も同社から出している。本書刊行後には『信州湿原紀行 花と緑に親しむ46コース』も出版している。
本書には湿原を訪ねるときのマナーや服装、下準備、注意点などについてのアドバイスもある。初めて行こうという人には役立つ。残念ながら晩秋から冬季はどこもシーズンオフ。今のうちに読んで来春以降の計画を立てるとよいかもしれない。
当欄では中高年や女性向きの近場歩きで、『日本百低山』(幻冬舎)も紹介している。
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