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来年春、元夫と再び...浅丘ルリ子の半生記

RURIKO

 昨年放送された昼の帯ドラマ「やすらぎの郷」は、倉本聰さんが脚本を手がけ、浅丘ルリ子と石坂浩二が共演することなどで話題となり人気を博した。元夫婦の2人は、好評に応えて、来年4月スタートの続編でも共演するという。2人の結婚、離婚は、浅丘の半生を描いて10年前に刊行された林真理子さんの『RURIKO』(KADOKAWA)で詳しくつづられている。登場人物が基本的に実名で書かれたノンフィクション小説。主人公のスター女優はなにごとにもさっぱりしていて男性的、その描写は「やすらぎ―」の浅丘と自然と重なる。ドラマの楽しみを一層深める一冊。

生まれながらの「女優」だった

 物語は昭和19年(1944年)の満州の首都、新京(現在の長春)から始まる。同地に駐在する大蔵官僚、浅井源二郎は満州映画協会のスタジオで、同協会の理事長である甘粕正彦と、美しいことで知られる4歳の愛娘、信子が将来女優になる可能性について話し合う。

 甘粕といえば、その20年ほど前の陸軍憲兵大尉時代に強制連行した思想家らを取調中に死亡させる事件で服役するなどの経歴があり、謎に包まれた人物。このときの満映理事長という肩書は表向きで、実際には満州帝国を差配する帝王という者もいて、その影響力はさまざまに広く深く及んでいるようだった。

 信子はのちに画家・中原淳一に見いだされ、やがて「浅丘ルリ子」として銀幕デビューし日活の看板女優へと成長していく。

 父、源二郎は甘粕と信子が女優になる可能性について話したあと、スタジオのリハーサルを前にこう考えていた。「けれども女優になれるはずはない。(中略)女優というのは特別な女なのだ。特別に美しく、特別な精神を持っていなくてはならない。それは強靭さ、あるいは大胆さ、図太さといったもので、いずれにしても平凡な幸福をさまたげるものであろう」

 物語の女優・浅丘ルリ子はデビュー後、まさに父のこの考えがぴたりとはまったような道を歩む。映画が全盛の昭和30年代の銀幕で、石原裕次郎、小林旭、美空ひばりらのスターとともに演じ、その裏側では、愛情や友情が交わされ、ルリ子が少女から女性に成長していく様子が描かれる。ルリ子はいつも、強靭で、大胆で、図太く振る舞うのだが、垣間見せる弱さが物語にメリハリをつけている。それぞれの時代で立ち直りへの期待を高めてくれる構成だ。

裕次郎、旭との違い

 物語は後半、映画産業が斜陽化した1970年代(昭和40年代後半)に入り、俳優も制作関係者らもそろってテレビに移動する。裕次郎は映画にこだわったが結果が出ず、やはりテレビに移り刑事ドラマで成功する。旭は自らをテレビに不向きと考え実業家の道に進んだが、不慣れもあって歩みは順調とはいえなかった。

 日本を代表する美人女優であるルリ子はテレビで大歓迎される。テレビドラマには当時、舞台演劇からも多数出演していたがルリ子は、舞台が本拠の人たちに対しては考えが違い過ぎて、自分がその中に加わったりすることはあり得ないと考えていた。そこにもたらされた次の出演が、劇団四季出身の石坂浩二の相手であり、うんざりする気分になっていた。

 石坂は慶応大学出。中退ではあるが同じ慶応出身の裕次郎がたわいない冗談しか言わなかったのに比べ石坂は、さまざまな知識を口にする饒舌ぶり。ルリ子は経験から、こういう風によくしゃべる男なら自分を口説くことなどないだろうとタカをくくっていたのだが、共演してからしばらくすると猛烈なアプローチが始まる。

 ルリ子は石坂のことを、裕次郎だけではなく旭らともしばしば比較。その博覧強記ぶりに気後れするところもあるのだが、石坂の攻勢に、女優として考えていなかった結婚を決意する。旭は2人の結婚について「2年持たないって方に賭けてる」と客観視。期間はともかく、旭が賭けに勝つ結果になった。旭はこの「賭け」をめぐって石坂を評して、映画に出れば殴られ専門の傍役しかできないというのだが、これは大外れ。石坂は「横溝正史シリーズ」で主役を務め立て続けにヒットを飛ばす。しかし、そのことが別居の一因になったとして語られる。

芸能界"側面史"描く一冊

 本書は、小説ではあるけれど、ほとんどの人物が実名で登場し、日本映画の全盛期から斜陽、転換期、またテレビドラマの進化についても触れられており、裏舞台も含めて、日本の芸能史を側面から眺められる格好の作品だ。浅丘、石坂が初共演し結婚のきっかけになったテレビドラマ「二丁目三番地」は、演出家の倉本聰さんが脚本に参加しており、その縁から「やすらぎの郷」での再共演が実現したもの。来年4月からの続編「やすらぎの刻~道」(テレビ朝日系)までを含めた『RURIKO』を林さんにお願いしたいものだ。

 本書は2011年5月に、KADOKAWAで文庫化されている。

 J-CAST BOOKウォッチではこれまで、林さんの作品については、16日が最終回だったNHK大河ドラマ「西郷どん」の原作『西郷(せご)どん! 』(KADOKAWA)のほか、短編集『秘密』(ポプラ社)や『不倫のオーラ』(文藝春秋)を紹介している。

 浅丘さんと旭さんの親密だった時代については、J-CASTニュースでも報じている

  • 書名 RURIKO
  • 監修・編集・著者名林 真理子 著
  • 出版社名株式会社KADOKAWA
  • 出版年月日2008年5月30日
  • 定価本体1500円+税
  • 判型・ページ数四六判・336ページ
  • ISBN9784048738446

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